毎回準備に時間が割けるとは限りません。人は、ゲームにかかりっきりというわけにはいかないのです。ちょっと試してみたいだけということもあれば、コンベンションの4時間枠をもらって、その時間いっぱい、初顔あわせのプレイヤーたちと遊びたい、ということもあるでしょう。もしかすると、あなたは準備に頓着しないかもしれませんし、マップだけ持っていってプレイする方がずっと楽しいと思っているかもしれません。あなたにお気に入りのオールド・スクールなアドベンチャー・モジュールがあって、ダンジョン・ワールドのルールを用いることでそれを遊んでみることを好むなら、さらに申し分ありません。この付録では、他のゲームの素材をダンジョン・ワールドにコンバートして馴染ませる方法を扱います。そうすることで、大好きなアドベンチャーを、本書に収められたルールを用いて、同じように柔軟に遊ぶことができるというわけです。
ダンジョン・ワールドを用いたアドベンチャーを準備する最初の一歩は、そのアドベンチャーを最後まで読んで、ダンジョン・ワールドのルールにも目を通すことです。本書における全ての基本ルールと、フロントおよびGMの基本方針を熟知することが望ましいでしょう。基本ルールに通じることは、アドベンチャーの骨組みを翻案する手引きとなり、フロントとGMの基本指針に通じていれば、ぶれずに正しい方向へと進む助けとなります。そうすることで、ゲームのプレイは本書に記されている通りのスタイルとルールを維持できるでしょう。以下の4つのトピックに注意を払いながら、そのモジュールを読み進めていってください。
アドベンチャーをパラパラとめくりながら、メモを取っていきましょう。ただし、丸ごと記憶しなければ、とは思わないでください。特に数値的なデータに焦点を当てた部分は、活用されないことがままあります。また、あえてアドベンチャーに余白を残しておいて、セッションを進める中でプレイヤーに埋めてもらう手法もとられます。
読み終えたなら、そのアドベンチャーがどのようなものであるのか大まかに理解できたことでしょう。そこに登場する力ある集団、冒険に関わる特別あるいはカッコいいモンスター、その登場人物が世界にもたらす脅威と危機、PCたちが興味を持ってくれそうなあれやこれやなどを大まかに把握してください。元のアドベンチャーはいったん脇に置いて、ダンジョン・ワールドのフロントの項を参照してください。手がける作業の大半は、そこを見ながら行われることになります。
ダンジョン・ワールドにおける標準的なアドベンチャーの中核、つまりシナリオやゲーム・セッションは、フロントからプレイヤーに向けられる作りです。フロントには差し迫った破滅が備わっており、プレイヤーはそれに反応を示し、その狭間でGMは何が起こるかを見るためにゲームをプレイします。コンバートしたアドベンチャーを使うときも、これはまったく同じです。モジュールを通し読みすることで、NPC、興味深い場所、世界に影響を及ぼしかねない、またはなんらかの計画を実行に移しそうな特別なモンスターと組織、などのことがわかるはずです。アドベンチャーの規模によって、そういった箇所はたったひとつということも、複数ということもあるでしょう。フロントのタイプのリストに目を通し、そういったグループごとにフロントを1つ作成してください。
お気に入りの昔のアドベンチャーをコンバートしていくことにしましょう。私はこのアドベンチャーを、たくさんのシステムで、相当な回数GMしたことがあり、ダンジョン・ワールドのグループでやっても盛り上がると思ってます。アドベンチャーがどんな感じだったかを思い出すために、ざっと読み返してみました。この話には、鱗で覆われた爬虫類人の神を崇める邪悪なカルト教団に、密かに脅かされている街が登場します。面白そうですね! この冒険には人目に付かないダンジョン、堕落した宗教団体、悪臭を放つ多数のトログロダイト、そして街に疑念と責任追及の動きが蔓延しているためほとんど助けを得られない冒険者たちが出てきます。よくない状況がよりどりみどりの、なかなか大変な始まりですね。私はこれら全ての悪い状況を、2つの主要なフロントに集約することにしました。「カルト教団」と「トログロダイトの氏族」です。
ここから、望めば洞窟に棲まう魔法を使うナーガを独立したフロントにしたり、「爬虫類人の神」そのものをキャンペーンフロントに加えるたりすることもできますが、今回のゲームは数セッションで終えるつもりなので、焦点を絞ろうと思います。上記の2つのフロントはいくつかの点で協力し合うものですが、共に特色があり独自に動くので、分離した次第です。
こういったフロントは普段通り、危難、差し迫った破滅、不吉な兆しを決めることで作成してください。まつわる問いを1~2個設けておくものの、必ず余白を多めに取るようにしてください。そうすることで、そこにプレイヤー・キャラクターたちをしっかり組み込むことができます。通常、上記の要素は、頭に浮かんだ思いつきをそのまま引っ張ってくることになるのですが、コンバートする場合は、手元のモジュールがガイドとなります。フロントをテーマ、危難をモジュールのページに記載されている要素として考えてみてください。フロントの諸要素においては、そのアドベンチャーでどのようなことをすることが想定されているのか、PCたちがそこにいて阻止しなかった場合に事態がどう推移するのか、に着目してください。フロントが好き放題暴れたら、どのような最悪の事態が発生するのでしょう? このようにある程度行間を読むことで、そのアドベンチャーをプレイ中にハード・ムーヴとして用いることのできる材料がもたらされます。またこの段階で、データ表記されているNPCを、ひとかどの危難か、フロントのキャストの1体へと書き換えてください。
トラップ、呪い、または全体に影響を及ぼすものがそのアドベンチャーに登場し、それをカスタム・ムーヴ化したい場合は、ここで書きだしてしまいましょう。昔のアドベンチャーの多くは、「セーヴィング・スロー」と呼ばれる厄介な影響を回避する要素が備わっていることでしょう。これは、よくあるように《危機打開》を発生させるとして簡単に処理してもかまいませんし、必要とあらばまとめて別々のカスタム・ムーヴとすることもできます。肝要なのは、ルール的な要素を徹底的に置き換えるのではなく、アドベンチャーの意図するところ(その精神)をとらえることです。
ここまで仕上がったなら、プレイヤー・キャラクターたちの直面する、主要な脅威や危難を取り扱うフロント一式が形になっていることでしょう。
たいていの出版されたアドベンチャーには、1~2体の他では見られないユニークなモンスターが含まれていました。何らかの方法で、プレイヤー・キャラクターたちに脅威をもたらす、これまで遭遇したことのないカスタムを施されたクリーチャーや深世界の住人のことです。アドベンチャーに目を通して、全体を把握するようにしてください。多くのモンスターは、『ダンジョン・ワールド』にデータが記載されており、それが満足のいくものであれば、何ページに載っているかをフロントに書き留めるだけで、次に進めます。モンスターをさらにカスタマイズしたいか、自作する必要があるなら、そのためのルールを使ってください。この段では、モンスターの「バランス」について考えを巡らしたり、モンスターのHPの量やアーマーの値が思い通りになっているかに気を揉みすぎたり、しないようにしましょう。そのモンスターが世界とどのように関わっていくのか、そこにこそ思いを巡らせるのです。モンスターは、どうしようもなくなった冒険者たちの度肝を抜き、追い払うのでしょうか? 行く手を阻んだり、謎掛けをしてきたりするのでしょうか? ダンジョンや冒険のより大きな周辺環境全体の中で、どのような役割を担っているのでしょうか? そのモンスターの本質を解釈することは、必ずより良く人を惹きつける結果につながります。すごいパワーや巧妙な芸当をモンスターが身につけており、それをカスタム・ムーヴとして書き出したいと思ったなら、そうしてください! カスタム・ムーヴは『ダンジョン・ワールド』をそれぞれのグループにとって特別なものにしてくれるので、可能な限りそれを活用してください。
私のアドベンチャーにおいて、モンスターは多岐にわたります。精神操作の力を有する恐ろしいナーガ、蛇神から授けられた魔法を使う邪悪な司祭、大勢の残忍な狂信者、ドラゴン・タートル、雑多なトカゲ・クロコダイル・蛇を少し。その多くは「モンスター領域」から持って来ることができますが、少なくともナーガと狂信者の首魁のデータはカスタマイズするつもりです。私は、そのモンスターたちを新奇なものと感じてもらいたいし、それをどう演出するかについては素敵なアイデアがあります。そんなわけで、モンスター作成ルールを使って、組み立てていきます。
作成済みではなく、かつモンスター作成ルールを適用してコンバートするほど熟知していないモンスターに出くわした場合は、代わりに直接コンバートすることができます。
(訳注:ここは昔のD&Dのアドベンチャー・モジュールや、現代のオールド・スクール・ルネサンス/リバイバルのシナリオを想定した記述となってます)
モンスターのダメージが、ダイス1個と+10以内のボーナスだったなら、そのままにしてください。同じ面数のダイス複数をダメージとする場合は、記載されたダイスを振って一番高い出目を採用しましょう。面数の異なるダイス複数を用いるなら、一番面数の多いダイスのみを振って、一番高い出目を使ってください。
モンスターのHPが、ヒットダイスとして記載されているなら、1個目が最大の出目を出したものとして数え、2個目以降のヒットダイス1つにつき+1してください。ヒットダイスではなく数値で記載されているなら、そのHPを4で割った値にしてください。
モンスターのACが平均値なら、1アーマーにしてください。ACが平均より低いなら、0アーマーにしましょう。ACが平均より高いなら2、防御に特化したビーストには3アーマーを与えてください。ほとんど傷を受けない存在なら4アーマーです。守りが魔法的なものなら、+1アーマーにしてください。
モンスター記載の、特殊能力や特別な攻撃に目を向け、それらに基づいてムーヴを作ってください。
『ダンジョン・ワールド』と他の多くのファンタジーRPGの最大の相異点のひとつは、マップそのものと地図製作のコンセプトにあります。多くのファンタジーRPGでは、どこに何があるのかを明確に記した正方形で区切ったマップ(スクェア・マップ)を目にすることでしょう。そこには可能な限りの詳細が詰め込まれており、問題となっている場所の描写を除けば、たいていはほとんど想像の余地のない形で提示されています。『ダンジョン・ワールド』は、その正反対の道をとることが多いです。マップは余白だらけで、「刃」や「恐ろしい」など1~2語の説明が添えられるのみです。既存のアドベンチャーを『ダンジョン・ワールド』用に改作するには、心得と方針に留意するだけで事足ります。なによりも、GMとしての仕事は「地図を描き、空白を残そう」「質問し、その回答を活用しよう」であることを、肝に銘じてください。
そうするためには、時間があれば、マップ全体を描き直す方がよいこともままあります。隅々までコピーするのではなく、フリーハンドで描き直して、好みに合えば、余白を残したり新しい部屋を描き加えたりしてください。書かれた通りのマップに固執するのではなく、創作する許可を自らに与えましょう。そうする狙いは、そこから状況を展開する余地をGMに与えることです。アドベンチャーに対するプレイヤーのリアクションが、GMを驚かせたり、閃きを与えたりできるように。前もって、マップ全体を確定させてしまえば、隅々までわかりきったことだらけになってしまいますよね? 関心を抱けない部屋をいくつかピックアップして、その居住者を消去してしまいましょう。トンネルを新たに1つ2つ描き加えましょう。こうすることで、ゲームを開始してからでも、あれこれ遊ぶ余地が生まれます。
マップを描き直す時間がなかったり、やる気が沸かない場合でも、心配は無用です。元のマップを手に取り、どこに何があるのかというメモを数項目書き入れて、残りは白地図のままにしておけばよいのです。「4f」のマークがついた部屋にプレイヤー・キャラクターたちが入るなら、シナリオのその項目を調べずに、書き込まれたメモとそこまでに発生した状況を基に、そこに何があるのか見当をつけるだけで事足ります。何が起こるのかを自由にプレイしつつも、準備を参考に進行させるという、心地よいバランスにたどり着けますよ。
私のアドベンチャー付属のマップは、楽しさ、格好良さ、多少の退屈なくだらなさをほどよく組み合わせたものです。ダンジョンの描きだす街の地下、すなわちトログロダイトの住処、とらわれの村人たちの置かれている隠し洞窟などの大部分には手を加えないつもりですが、村そのものに関わる事柄の多くはうっちゃって、余白として残すことになるでしょう。そうすることで、「この地にいる、どのような人物のことを前々から知ってる?」「道の先にある放棄された小屋には誰が住んでいる?」といった質問に答える余地が生まれるのですから。また、マップとフロントの交錯するところにはメモをつけましたが、大部分は掘り下げるための余白を残すようにしています。
出版されたモジュールにおいて昔から「大きな問題」となっているのは、宝物とマジックアイテムの2つです。『ダンジョン・ワールド』ではそこまで問題にならない(プレイヤー・キャラクターへの報酬サイクルは「持っている」ことよりも「行動する」ことの方に重きが置かれているため)とはいえ、ダンジョンでの骨の折れる仕事や、失われた遺跡を探索する中で、すごいマジックアイテムや金貨の山を見つけ出すのは、やっぱり楽しいものです。マップと同じく、冒険の中で出くわすかもしれないあれやこれやは、発想を得る助けにもなります。とりわけ、テキスト内でアドベンチャーそのものと関連するとされているもの(4階のゴーレムに傷を負わせることのできる魔法の剣、部屋3でつかまっている王子の所有物であるペンダントなど)は、特に重要です。モンスターと同様に、マジックアイテムも、それが何を実現するためにあるのかという観点で見るのがよいでしょう。それがもたらすダメージやアーマーのボーナスよりも、「なんのために」あるのかを重視してください。例えば、『ダンジョン・ワールド』は、宝物とキャラクターのレベルとのバランスに基づいて事を進めるわけではありませんので、アドベンチャーに登場する素敵だったり、楽しかったり、興味深かったりするアイテムに目を通しておき、必要だと思ったところで新たなマジックアイテム(必要に応じてカスタム・ムーヴも)を作成してください。このステップはおそらく、コンバートの中でもっとも簡単です。繰り返しになりますが、ここでも、GMの掘り下げる余地を残しておいてください。「かのウィザードは魔法の杖を持っているが、何をなすものなのだろう?」というような自分用のメモをつけておき、プレイの中で答えを見いだすのです。それについてプレイヤーに質問して、どんな答えを口にするのか見てみましょう。《物言う知見》を行わせるのも役に立つでしょう。「この地のウィザードは風変わりな魔法の杖を持っていると耳にしたことがある。その由来については、どのような噂を聞いている?」といった具合に。
このステップは完全に任意ですが、コンベンション卓や、「最初のセッション」の手順を十分に行えない環境のグループに対して、アドベンチャーを運用する際、とても有用です。そのアドベンチャーの変更可能なところを引っ張ってきて、キャラクター作成後かつプレイ開始前に行わせるカスタム・ムーヴを書き、冒険への「フック」とすることができるのです。この手のムーヴは、プレイヤー・キャラクターを卓で分かちあわれる物語へと引き入れ、特別なものを与えて備えさせたり、まさに起きようとしていることに引き込む働きをします。クラスごとに1つずつ書いても、ひとまとめにしてもかまいません。例は次のようになります:
ファイター、君を愛する人物が、君が冒険の人生へと旅立つのに先立ち、ある贈り物をした。ダイス・ロール+【CHA】を行い、相手がどれぐらい君を愛していたのか述べること。10+なら、先祖伝来の品を2つ、7-9なら1つ選択すること。ミスなら、まあ、善意にも何らかの値打ちがあるってところかな?
こういったムーヴにより、プレイヤーは自キャラクターが目前の状況に関係しているという感覚を持てるので、ゲームの世界を生き生きとしたものにする質問と答えのやりとりがよりやりやすくなります。フロント、それが危うくするもの、それが守る富、それが世界に及ぼす影響について、考えてみてください。開始時のムーヴを、そうやってひらめいた理解に由来するものとすることで、アドベンチャーを勢いよく開始することができるのです。