ファンタジー・ジャンルは多種多様で、それぞれに独特のスタイルやゲーム・マスタリングのコツがあります。ダンジョン・ワールドはそうしたスタイルのひとつに特化しています。すなわち、エルフやオーク、ドラゴンや魔法が実在し、暗黒の危険が雄渾な冒険と混合する世界です。この章のルールは、そういうスタイルのゲームを運営する上での助けとなるでしょう。
プレイヤー・キャラクターには、ダイスを振ったり、行動を起こしたりするときにしたがうべきルールがあります。そしてGMにもしたがうべきルールがあります。GMは審判し、裁定し、そして世界を描写します。ダンジョン・ワールドは、GMのそういう仕事の手引きとなる枠組みを提供します。
この章は、GMへのアドバイスや、ダンジョン・ワールドをうまく遊ぶためのコツや小ネタ集ではありません。GMの役割を受け持つ人のための、手順とルールの章なのです。
ダンジョン・ワールドのゲーム運営は、GMの心得(アジェンダ)、GMの方針(プリンシプル)、GMのムーヴの3つから成り立っています。GMの心得とは、卓についているとき、何に着手するのかを指します。GMの方針とは、その心得に集中する上での道しるべのことです。GMのムーヴとは、ゲームを前に進めるために、GMがその場その場で用いる具体的な手立てのことです。たとえば、プレイヤーがダイス・ロールに失敗したときに、たとえば、ルールで決められたときに、そして何より、何が起こったのか知るためにプレイヤーがGMのほうに顔を向けたときに、GMはムーヴを実行します。GMのムーヴは、物語の世界を首尾一貫したものにして、ゲームを前へ前へと躍動させてくれるのです。
GMの心得、GMの方針、GMのムーヴは、ダメージや能力値やヒット・ポイントと全く同じ重さを持つルールです。変更したり、無視したりしようとするときは、他のルールに手を加えるときと同じだけの注意を払わなければなりません。
GMとして卓に座ったとき、やるべき仕事は次の4つです:
プレイヤーの方は気楽なものです。自分のキャラクターがどんなことを言い、考え、やるのかを述べるだけで事足ります。GMの仕事はもう少し骨が折れます。GMはそれ以外のすべてについて発言しなければならないからです。そこにはどのようなことが含まれるのでしょう?
まず何よりも、GMはいついかなるときでも、プレイヤーをとりまく直近のシチュエーションについて描写します。これは、GMがセッションをスタートさせ、休憩の後で状況を再確認し、大爆笑した後に本筋に戻るときに使う手段でもあります。どのようなシチュエーションであるかを具体的に伝えてください。
細部にこだわり、五感を総動員してシチュエーションを描き出しましょう。シチュエーションとは、単に「オークが君たちに突進してきた」だけで終わるものではありません。そのオークは血まみれで、ハンマーを振り回し、血も凍るような雄叫びをあげている、とまで言ってはじめてシチュエーションといえます。情報不足を利用してもよいでしょう。たとえば、鎧ががちゃがちゃいう音と引きずるような足音のみを提示する、といったように。
プレイヤー・キャラクターをとりまくシチュエーションが「世はなべて事もなし」ということはめったにありません。彼らは冒険を渡り歩く冒険者なのですから。対応しなければならない何ごとかをぶつけてあげましょう。
GMがシチュエーションを描写するときには必ず、その末尾を「どうする?」で終わらせてください。ダンジョン・ワールドは活劇と冒険のゲームです。レスポンスを要求するシチュエーションを活写しましょう。
ゲームをはじめたら、ルールにしたがうことを心がけてください。GM用のルールはむろんのこと、プレイヤーのムーヴにも目を光らせるということです。ムーヴが引き起こされたときに注目するのは、GMも含めた参加者全員の責務なのですから。プレイヤーのしようとしていることがムーヴに該当しそうなときには、待ったをかけて、ルールを発動するつもりなのかどうかをたずねてください。
ルールにしたがうということの一環として、ムーヴを行うことになります。GMのムーヴはプレイヤーのムーヴとは違っているので、そのことは後で少し詳しく説明します。GMのムーヴは、ゲームの流れを変えうる特別なものなのです。
そしてなにより、事前準備を活用しましょう。時には、GMはプレイヤーがまだ知らない物事を承知しています。GMはその知識をムーヴの手がかりにできます。たとえば、ウィザードが呪文を唱えたら、予想外の注意を引くかもしれません。プレイヤーは、今しがた自分たちに向けられた注意が、二階下にいるデーモンの不気味な睨視であることを知りません。けれども、GMは知っているというわけです。
GMの心得は、ダンジョン・ワールドのゲームをマスタリングする間じゅうずっと目標とする物事で成り立っています。すなわち:
GMが口にすること、卓内で(そして卓外で)行うことは全て、ほかならぬこれら3つの目標を達成するためのものです。このリストに載っていないことはGMの目標ではありません。GMはプレイヤーを打ち負かそうとしたり、複雑な罠を解き明かせるか知恵比べを挑んだりはしないのです。GMは、やたら手の込んだ自作の設定を探検する機会をプレイヤーにもたらすため、卓にいるのではありません。GMはプレイヤー・キャラクターを殺そうとはしないのものです(モンスターはそうするかもしれません)。そして間違いなく言えるのは、GMがお仕着せのストーリーをみなに語って聞かせるためにここにいるのではない、ということです。
GMの最初の心得は、ファンタジー世界を活写することです。ダンジョン・ワールドは、闇と災いに敢然と挑む勇気と知恵についてのゲームです。栄誉ある報酬を望んで冒険生活を選んだプレイヤー・キャラクターについてのゲームなのです。GMの仕事は、プレイヤーに自分のキャラクターがそういった冒険を見つけることのできる世界を提示することで、ゲームに参加することです。プレイヤー・キャラクターがいなければ、世界は混乱と破滅に陥ってしまうでしょう。もしかすると、いてもそうなるかもしれません。そんな世界の幻想的諸要素を活写するのがGMの役目です。プレイヤーに、自分たちのいる世界の驚異を見せて、それに立ち向かうよううながしましょう。
プレイヤー・キャラクターの生き様を冒険で満たす、とは、プレイヤーと協力して、魅力にあふれ躍動する世界を創造するということです。冒険者たちはいつでも、世界をおびやかす何らかの危険や、それに類する事件の渦中に巻き込まれます。このゲームでは、そうしたたぐいの活劇が奨励され、後押しされるのです。
ダンジョン・ワールドの冒険では、決してプレイヤーの行動をあらかじめ想定しないでください。ダンジョン・ワールドの冒険が描き出すのは、変化し続ける舞台設定です。舞台となる重要な場所では、大小さまざまなクリーチャーが己が目標を追求しています。プレイヤー・キャラクターがそうした舞台設定および住人と対時するとき、活劇は不可避です。GMはそうしたアクションのもたらす影響を誠実に活写しましょう。
そうすることで、何が起こるのかを発見べくプレイすることができます。GMは、自らが描き出した世界に、プレイヤー・キャラクターたちがいかに対処し、いかに変化をもたらしていくかを発見する楽しみを、皆と分かち合うのです。参加者は一丸となって、目の前で繰り広げられる偉大な冒険に携わっていきます。だからこそ、あらかじめ想定しすぎてはいけないのです。そんなことをしたら、このゲームのルールと争う羽目になるでしょう。予想もつかない物事が眼前に展開していくのはとても楽しいものです。信じてみてください。
GMの方針とは、GMにとっての手引きぼことです。多くの場合、ムーヴを行おうというときには、GMにはすでになんらかの筋道立ったアイデアが浮かんでいることでしょう。それをGMの方針に照らして、合致しているなら、実行してください。
ダンジョン・ワールドが広がっているのは、主に遊んでいる人たちの想像力の中だから、地図があれば、全員がイメージを共有する助けになります。新しい行き先が描写されるたびに、それを地図に加えましょう。もちろん、描き込む役はGM以外の誰かに任せてもかまいません。
地図を描くときには、それを完成させてしまわないようにしてください。未知の空間を残しておきましょう。ゲーム中にアイデアが浮かぶかもしれませんし、プレイヤーがアイデアを出してくれるかもしれません。地図がどんどん広がって、変わっていくように仕向けましょう。
プレイヤーではなく、キャラクターに話しかけよう、とは、「トニー、ダンウィックはそのワイトをどうするんだい?」と聞いてはいけないということです。そうではなく、GMは「ダンウィック、君はそのワイトをどうするんだい?」と言いましょう。こういうふうに話しかけることで、ゲームの焦点は現実の卓ではなく、架空の物語に集中することになります。これはゲームを淀みなく進めるためにも大切です。GMがプレイヤーに話しかけてしまったなら、キャラクターがどのムーヴをとるかの判断材料となる、重要なディテールを抜かしてしまうかもしれません。ムーヴは常にキャラクターの行動にもとづいたものとなるので、GMは演じているプレイヤーの目線ではなく、キャラクターの目線で何が起こったのかを考える必要があるのです。
魔法、奇妙な光景、神々、デーモン、そして忌まわしきものども。世界は神秘と魔力に満ちています。GMの事前準備とゲームそのものにそうした要素を織り込みましょう。さまざまな尺度で「幻想的な物事」について考えてください。浮遊都市や、神の骸から創造された島々に思いを馳せ、村の賢者やその霊的な使い魔、あるいは地元の盗賊が触ることで幸運をわけてもらっているという彫像について考えるのです。キャラクターたちは興味を引く人物であり、神々の恩寵を受けたり、武術に熟達したり、魔術の訓練を積んだりしています。世界はまさしく魅力にあふれていなければならないのです。
GMがムーヴを行うときは、実際に物語の一要素をとって、それをプレイヤー・キャラクターにぶつけることになります。GMのムーヴはいつでも物語の文脈(フィクション)に沿っていなければなりません。そうすることで、現在のシチュエーションの一側面に注目して、それにまつわる何かおもしろいことが行えるはずです。今どんなことが起きているのでしょう? この場面で筋が通るのはどんなムーヴなのでしょう?
ダンジョン・ワールドの整合性をだいなしにしたいなら、GMが行おうとしているムーヴをプレイヤーに教えるのが一番手っ取り早いでしょう。GMのムーヴはGM専用の備忘録であって、直接口に出す代物ものではないのです。
リストからムーヴを選んでいるそぶりを決してプレイヤーに見せてはいけません。だからGMは、奴隷商人がオマールを連行したのが「誰かを困った状況に置く」ムーヴに起因すると理解していても、それを提示するに際してはプレイヤーの行動からもたらされた当然の結果としてください。
モンスターは(単純であれ複雑であれ)独自の行動動機をそなえた幻想的なクリーチャーです。それぞれのモンスターに、匂い、姿、物音といった、生き生きとしたディテールを与えてください。それぞれのモンスターがほんとうらしく見えるように仕上げましょう。ただし、そいつが殴られ、倒されてもGMは非難の声を上げないでください。だってプレイヤー・キャラクターはそうするものなのですから!
プレイヤー・キャラクターが話をする相手には皆、名前があります。おそらく彼らには人格があり、何らかの目標や意見も持っています。とはいえ、そういったことは即興で決めてしまってかまいません。まずは名前をつけましょう。残りはそこから自然にあふれ出てくるはずです。
ゲームの中で何が起こるかを発見する上で大事なのは、全てを把握ようとはせず、好奇心を持っておくことです。わからないことに突き当たったり、アイデアが浮かばなかったりした場合は、プレイヤーにたずねて、その答えを活用しましょう。
一番手軽に使える質問は「どうする?」です。GMが何かムーヴを行ったときには必ず末尾を「どうする?」でしめくくってください。ムーヴの対象になった人物以外に質問を投げかけてもよいでしょう。機会をとらえて、焦点を移し替えてください。たとえば「ラースの呪文は魔道士の杖のひとふりでかき消えてしまった。さてフィネガン、あの呪文は君を助けるためのものだったよね。それが消えてしまった今、どうするんだい?」という具合です。
プレイヤー・キャラクターのことを、テレビ・ドラマの主人公だと考えてください。その勝利をほめたたえ、その敗北に涙しましょう。GMはPCを何か特定の方向に誘導するためにここにいるわけありません。PCが主役を張り、その行動に焦点の当たった物語に参加しているにすぎないのです。
世界のありとあらゆるものは標的です。GMはまるで悪の大魔王のように考えをめぐらせることになります。生命は等しく無価値で、神聖不可侵なものなどありはしません。あらゆるものに危険にさらされ、破壊されてしまう可能性があります。GMの創造するものの中に、守られているものなどないのです。自分の創造物に目を向けるときいつでも、それが危険に陥り、ばらばらになり、崩壊する姿を思い描きましょう。世界は変化します。キャラクターの介入がなければ、悪い方向に変わっていくのです。
GMとプレイヤーがダンジョン・ワールドの中で行うあらゆることは、物語上のできごと(フィクション)に由来し、帰結します。プレイヤーがムーヴを行うときは、物語上での行動を切っ掛けにムーヴを発動し、ルールを適用し、そして物語上の効果を手にします。GMがムーヴを行うときは、必ず物語に由来したものとなるのです。
GMがキャラクターのファンだからといって、なにもかもがキャラクターの眼前で起こるわけではありません。時には、GMのとっておきのムーヴが、隣の部屋や、ダンジョンの別の場所、はては出発地点の町で発生することだってあります。GMのムーヴを別の場所で起こし、その影響に注目が集まったときをみはからい開陳しましょう。
何が起こるのかと皆がGMのほうを向いたときにはいつでも、以下のムーヴの中からひとつを選んでください。それぞれのムーヴは、ゲームの物語の中で起こった何かを表します。婉曲な表現や特別な専門用語は用いていません。たとえば「リソースを消費させる」とは、文字通り、プレイヤー・キャラクターのリソースを消費させることを意味します。
GMのムーヴの名称を口に出さないでください(これはGMの方針のひとつでもある)。それをプレイヤー・キャラクターに起こった現実の物事として表現しましょう。たとえば「君は咆えたけるオーガの棍棒をかわしたが、すべってしたたかに身を打ちつけてしまった。君の剣は暗闇の中にすべっていってしまう。剣の消えた先はわかるものの、オーガが君のほうに迫ってきている。どうする?」というように。
どんなムーヴをGMが選ぼうとも、末尾は必ず「どうする?」でしめるてください。GMのムーヴはGMの心得を達成するための手段であり、心得のひとつには「プレイヤー・キャラクターの生き様を冒険で満たす」とあります。呪文が暴走したり、足下の床が突然ぬけたりしたなら、冒険者たちは対応しなければなりません。さもなくば手をこまねいていた代償を支払うことになるでしょう。
次のようなときにGMのムーヴを行うこと:
一般に、何が起こるのかと皆がGMのほうを向いたときには、GMはソフト・ムーヴを行います。それ以外のときはハード・ムーヴを行ってください。
ソフト・ムーヴとは、即時かつ不可逆的な結果をもたらさないムーヴのことです。普通、それほどひどくない物事を指します。たとえば、ゴーレムを迂回できる道を見つけたまさにそのとき、怪物が宝の山を守っていることがわかる、などです(代償つきの機会を与える)。また、ソフト・ムーヴは、何か悪いことがわかるか起こるが、それを回避できる時間的余裕がある、ということも意味するかもしれません。たとえば、ゴブリンの弓隊が矢を乱射してくる(迫り来る脅威の兆候を示す)なら、プレイヤー・キャラクターにはこの危機を避けるチャンスを与えましょう。
ソフト・ムーヴが無視されたら、ハード・ムーヴを行う絶好の機会が到来します。もしプレイヤーが迫り来る矢の雨に対して手をこまねいていたら、《ダメージを与える》ムーヴを行う絶好の機会というわけです。
一方、ハード・ムーヴは即時の結果をもたらします。《ダメージを与える》はほぼいつでもハード・ムーヴです。なぜなら、HPの喪失はプレイヤーからの何らかの行動がなければ回復できないからです。
ハード・ムーヴを行う機会が訪れたときに、シチュエーションにより適していると思えば、GMはソフト・ムーヴを行うことができます。時として、終わりよければすべてよし、ということもあるのです。
ムーヴを選ぶには、まず、それを発動させた行動が引き起こす明白な結果に着目しましょう。既になんらかのアイデアを思いついている場合は、それがGMの心得および方針に適合しているかを再確認した上で、実行してください。また、GMのムーヴで雪合戦のような応酬を引き起こしましょう。プレイヤー・キャラクターのムーヴの成否と、それより前に投入したGMムーヴに基づいて考えてみてください。
第一印象として、これは今のところは害にならないが、後々、キャラクターを痛い目にあわせるだろうと思ったなら、素晴らしいことです! それこそGMの方針のひとつですから(画面外のことも考えよう)。メモしておいて、時節が到来したらそれを突きつけてやりましょう。
ムーヴを行うときには、GMの方針を忘れないようにしましょう。特に、「GMのムーヴの名称を決して口にしてはならない」と「プレイヤーではなく、キャラクターに話しかける」には注意を払ってください。GMのムーヴは卓上で起こる機械的なアクションではありません。それはGMが今描いている架空世界にいるキャラクターたちに起こっている確固たるできごとなのです。
《ダメージを与える》はムーヴですが、他のムーヴもダメージを与える可能性があることには注意してください。たとえば、オーガに壁に投げつけられたなら、そいつに拳で殴られたときと同じように、ダメージを受けるのが道理です。
そして、GMがムーヴを行ったら、必ず末尾で「どうする?」とたずねてください。
冒険に登場する全てのモンスターにはムーヴが付随しています。それは多くの場所(ロケーション)にもいえることです。モンスターや場所のムーヴは、たとえば《誰かを投げ飛ばす》や《次元界の橋渡しをする》といった、その場所やモンスターがしてくることの説明文そのものです。もしプレイヤーのムーヴ(《ハック・アンド・スラッシュ》のように)によって、モンスターに攻撃の権利が与えられたら、そのモンスターに攻撃的なムーヴを行わせてください。
その冒険全体を覆う危険にも、ムーヴが付随します。モンスターの増援などを指すこうしたムーヴを用いることで、ゲームに危険をもたらしましょう。
歓迎されざる真実とは、プレイヤーにとって本当であってほしくない事実のことです。たとえば、その部屋には罠がしかけられている、その友好的なゴブリンの正体はスパイだった、などなど。プレイヤーに、自分たちがどれだけひどいトラブルに足を突っ込んでしまったのかを突きつけましょう。
これはGMにとって一番汎用性の高いムーヴのひとつです。「脅威」とは、近づきつつある何か悪いことを指します。このムーヴによって、GMはプレイヤーに、どうにかしないとよくないこと起こる、ということを示すわけです。
GMがダメージを与えるときは、物語上でキャラクターをおびやかしているダメージ源をひとつ選んで、それを適用することになります。リザードマンと戦闘中なら、そいつに突き刺されます。罠にひっかかってしまったなら、岩が落ちてくるでしょう。
ダメージの量は、ダメージ源によって決まります。場合によっては、このムーヴは双方にダメージを与えるかもしれません。すなわち、プレイヤー・キャラクターもダメージを与えるわけです。
たいていのダメージはダイスを振って決めます。プレイヤー・キャラクターがダメージを受けたら、どのようにダイスを振るかをプレイヤー伝えてください。GMがサイコロに手を触れる必要は皆無です。もしそのプレイヤーが極度に臆病で、自らの運命に直面するのを恐れるなら、別のプレイヤーに代行を頼んでもかまいません。
ダンジョンなどの危険な場所で生きのびるには、往々にして補給物資の有無が問題になります。このムーヴによって、そうしたリソースを消費してしまう何かが起こります。リソースとは、武器、防具、回復手段、持続中の呪文などのことです。ただし、必ずしも永久的に消費しなくてもかまいません。たとえば、剣は部屋の反対側に飛んでいってしまったものの、まだ折れてはいない、といった具合に。
ムーヴがプレイヤー・キャラクターにもたらす利益について考え、それを反転させて矛先を当人に向けてください。あるいは、プレイヤー・キャラクターに敵対している人物に、同じ利益を与えましょう。たとえば、アイヴィーはホルスト公爵の兵隊が東からやってくることを知ったものの、彼女も公爵の斥候に発見されてしまう、という塩梅です。
血に飢えたオウルベアの群れに取り囲まれた激戦の渦中におかれるより悪いことは、そうそうありません。そうした最悪の事態のひとつは、孤立無援でそんな戦いに身を置くことです。
キャラクターを離散させるとは、戦闘のさなかに離ればなれになってしまうことから、ダンジョンのどこかにテレポートされてしまうことまで、あらゆる事態が当てはまります。どのような形で起こるにしろ、それは間違いなく問題を引き起こすでしょう。
シーフは罠をはずし、忍びより、錠前を解除します。クレリックは神々や死者とやりとりします。全てのクラスには、活躍できる領分というものがあるのです。ひとつのクラスが活躍できるような機会を提供しましょう。
なお、その場に該当クラスがいる必要はありません。ときには、鍵のかかった扉が宝物への行く手を遮っているのに、その場にシーフはいない、ということもあります。これは、工夫や取引、創造力をはたらかせる切っ掛けとなります。血みどろの斧しか手元にないからといって、あらゆる問題を敵の頭蓋骨のように両断できはしないのです。
全てのクラスには活躍のしどころと同時に、弱点があります。オークどもがエルフの血に特にご執心だったら? クレリックの魔法が危険きわまる勢力を目覚めさせてしまったら? 道を照らすたいまつが、闇に潜む目の主の注意をひいてしまったら?
富、権力、栄光といった、プレイヤー・キャラクターがほしがっているものを提示しましょう。GMが望むならば、もちろん、そこに何らかの代償をつけくわえてもよいのです。
物語仕立て(フィクション)にすることをお忘れなく。「このエリアに危険はないから、時間をかけるのを厭わなければ、ここで野営できるよ」などと言ってはなりません。それをしっかりした物語上(フィクション)の描写にして「ヘルファース神の加護は、打ち砕かれたこの祭壇にまだ残っているようだ。ここは安全そうな場所だが、儀式の間からの詠唱の声はどんどん大きくなってくる。どうする?」という風に口にしましょう。
困った状況とは、プレイヤー・キャラクターが困難な選択を強いられる場面のことです。当のPCか、彼らが大事に思っている物事を、破滅の進路上に置いてください。状況が厳しければそれだけ、選択も難しいものになります。
このムーヴは、プレイヤー・キャラクターがムーヴでカバーされていない何かを望んだときや、PCのムーヴが不首尾に終わったときに、特に役立ちます。なんとか実行できるものの、代償を支払う必要が生じるのかもしれません。あるいは、実行できたけれども、都合の悪い顛末が待っているのかもしれません。たとえば、サメがうようよしている壕を、食べられずに泳ぎ切るには、サメの気をそらさなければならない、などです。もちろん、このことはプレイヤーだけではなく、そのキャラクターに対しても明示しておきましょう。先の例でいえば、サメは飢えて凶暴になっている、といった具合です。
ダンジョンのムーヴは、即興でダンジョンを作ったり変更したりするために用いる特別なサブセットです。GMが全く下準備をしていない危険地域をプレイヤーが探検している場合に用いましょう。
次のムーヴを使いながら、探検中の地域の地図を作ってください。ほとんどのムーヴは、GMの地図に新しい部屋や要素を追加することを求める内容となっています。
これらのムーヴを使うことができるのは、GMの発言を期待して皆の視線が集まったときや、プレイヤーがGMに機会をもたらしたとき、あるいはプレイヤーが判定に失敗したときです。特に、キャラクターが新しい部屋や通路に入って、そこに何があるか知りたがったときに最適です。
環境とは、プレイヤーが入ったエリアの全体的な様子のことです。たとえば、天然の洞窟、まがりくねった樹林、安全な抜け道などなど。このムーヴは、彼らを新しい環境に導くよい機会となります。洞窟はゆっくりと天然のものにかわっていき、樹林は枯れて奇妙なものになっていき、抜け道は消えて原野が広がったりするわけです。このムーヴを使って、プレイヤーが直面するエリアやクリーチャーのタイプをさまざまに変化させてください。
GMが、何かが隠れ潜んでプレイヤー・キャラクターがつまづくのを待ち受けていると知っているのであれば、このムーヴでその兆候や手がかりを示しましょう。このムーヴが当てはまるのは、泥についたドラゴンの足跡や、ゼラチナス・キューブの粘液の痕跡といったものです。
クリーチャーのタイプとは、オーク、ゴブリン、リザードマン、アンデッドといったように、大まかな分類のことです。
勢力とは、類似の目標で団結したクリーチャーの一団のことです。いったんそいつらを登場させたら、GMはそのクリーチャーやNPCにまつわるいろいろなムーヴを行って、プレイヤーを悩ませることができます。
登場させるとは、明確な知覚的兆候や、具体的な情報を与えることを指します。出し惜しみはなしです。プレイヤーは、GMがどのような存在を示そうとしているのか、多少は予断を持っておくべきだからです。とはいえ、アプローチ方法には工夫を凝らしましょう。毎度毎度、邪教団の総帥がプラカードをふりまわして、冒涜的な言葉をわめき散らす必要はないのです。
これをハード・ムーヴとして用いれば、雪合戦式に戦闘シーンや待ち伏せシーンへとつながるでしょう。
プレイヤー・キャラクターに、勢力やクリーチャーのタイプの存在を明らかにしたら、それ以降はそのタイプのモンスターのムーヴを用いることが可能になります。
勢力とタイプは大雑把に使っていきましょう。オークは狩猟用のワーグを連れているし、狂信者にはおそらくアンデッドの下僕や深淵の底から召喚した魔獣がついてくるものです。この手のムーヴは、しばしば無意識のうちに用いることになるでしょう。準備しておいた道具を、明白かつ効果的なやり方で使用するわけですから、至極当然に。
GMが地図に書き加えたスペースを見直してください。これまで気づかなかった、役立つ箇所はないでしょうか? 戻ることでのみ克服可能な、新たな障害を追加できないでしょうか? 今ここに鍵のかかった扉があるものの、その鍵は今まで通ってきた部屋にあるのではないでしょうか?
逆戻りするときには、踏破済みの領域において時間が経過したことによる影響を示してください。新しい脅威が目を覚ましてはいないでしょうか? どうしてその脅威は応戦せずに、PCの帰りを待つ羽目に陥ったのでしょう?
このムーヴを使って、ダンジョンを生き生きとした場所にしてください。プレイヤー・キャラクターが進んでいけばそれだけ変化が起きます。増援をよこし、壁に穴をあけ、混乱を引き起こしましょう。ダンジョンはプレイヤー・キャラクターの行動によって漸進的に変化していくのです。
プレイヤーは何を欲しているのでしょう? 何のためなら犠牲を厭わないのでしょうか?
欲しがりそうなアイテムを、もう少しで手が届きそうな場所に置きます。時間、HP、装備などといった、PCに不足しているものを見つけておいてください。次になんとかして、その不足要素をなげうつことで、欲しいものを手に入れられるようにするのです。
このムーヴの一番簡単な使用方法は、主目標から外れたところに黄金を置くことです。プレイヤーは、生け贄の儀式が今にも行われようとしていることがわかっていても、彫像のルビーの目玉をくりぬくのをやめないのでしょうか? このムーヴを使えば答えがわかります。
プレイヤー・キャラクターの得意分野に関する試練を与えましょう。シーフには鍵のかかった扉、クレリックには敵対神のしもべ、ウィザードには調査すべき魔法の神秘、ファイターには粉砕できそうな頭蓋骨、といったように、活躍できるチャンスを与えるのです。
別の方法もあります。プレイヤー・キャラクターが不得意なことや、未解決のまま放置した事柄をつきつけることです。うしろめたさ抱えつつも込み入った嘘をついているバードが、そのことを見抜かれた場合、いかようにして取り繕うのでしょう? ウィザードがデーモンを召喚した場合、その噂が広まったなら何が起こるのでしょう?
このムーヴは、たとえ一瞬であっても、プレイヤー・キャラクターに脚光を浴びせます。このムーヴを毎セッション用いて、主役になれるチャンスを全員に与えることを心がけてください。
ダンジョン・ワールドには、よく起こる状況がいくつかあります。この項で扱うのは、その処理方法です。
遅かれ早かれ、剣が抜かれて血が飛び散ります。そうなったら、プレイヤーは《ハックアンドスラッシュ》《射撃》《防御》に着手し始めるでしょう。単なるダメージの応酬に終始しないよう考えを巡らせてください。モンスターはプレイヤー・キャラクターをつかまえようとするかもしれませんし、PCから何かを守ろうとするかもしれません。その戦闘が何を巡ってのものかを把握しましょう。それぞれの陣営が求めるものと、それが戦闘の流れにどのような影響を及ぼすかを推測するのです。
自尊心のあるモンスターは、棒立ちで殴られるままということはありません。戦闘はダイナミックなものであり、クリーチャーは間合いに入ったりはずれたり、遮蔽をとったり、後退したりします。時には、戦場そのものが移り変わります。GMのモンスターには、プレイヤーが対応しなければならないような行動をとらせましょう。たとえ戦闘中であっても、《ダメージを与える》以外のムーヴを使うようにしてください。
全員に行動の機会を与えましょう。そして、それぞれのプレイヤーが戦闘の混乱の中でどこにいるのかを把握しておいてください。複雑な戦場なら地図を描くことで、今何が起こっているのかを全員が把握し、適切に自分の行動を述べられるようにするのです。
トラップはGMの事前準備によってもたらされるかもしれないし、GMのムーヴにもとづいて即興的に現れるかもしれません。その場所の安全が全然確保されていないなら、トラップはいつでも選択肢に入れておくべきです。
プレイヤーは、巧妙な作戦、罠の感知能力、《事実の識別》などを通して罠を発見するかもしれません。プレイヤー・キャラクターが、ムーヴを引き起こすことのない行動を描写して、その行動でトラップが発見されそうな場合は、隠し続けてはなりません。トラップだろうと、ルールは破れないのです。
ドワーフの鍛冶屋、エルフの賢者、多種多様なヒューマンが、プレイヤー・キャラクターの周りの世界に居住しています。彼らはどうなってもいいようなでくの坊ではないものの、プレイの中心として掘り下げるほどでもありません。NPCは人です。つまり、彼らには目標があり、その目標に向けて奮闘するための手立てを持っています。NPCを使って、世界の様相を描き出しましょう。出世しようとあがく庶民や、人びとの暮らしを改善しようとする貴族階級を、プレイヤーに見せてください。冒険の中には、人里離れたダンジョンではなく、人びとの住まう環境で全編が進行するものもああります。クラスによっては、とりわけバードが、人びとを操ってリソースとして用いる術に長けています。こういったシチュエーションを敬遠しないでください。プレイヤー・キャラクターのファンになり、彼らがやりとりするに足る、面白く味わいのある人びとを登場させましょう。
人びとはダンジョンと同様、時間とともに変わってゆきます。プレイヤー・キャラクターが彼らの人生に関わることで、人びとが奮起することもあれば、立腹することもあるでしょう。プレイヤー・キャラクターの行動は世界を良きにつけ悪しきにつけ変化させます。前回の訪問時にひどい目に遭わせた街を通りかかることがあったなら、今日の住民がいかに変貌したかを見せつけてください。以前よりも用心深くなったでしょうか? 新たな宗教に取り入れたのでしょうか? それとも復讐に燃えているのでしょうか?
プレイヤー・キャラクター間の関係は「縁故」によって表されるものの、NPCとの関係はずっと希薄なものとなります。もしプレイヤーが世界の住人と現実的かつ長続きする関係を望むのであれば、行動を起こさなければなりません。潜在的な味方や敵の期待と恐れに直面したときの「どうする?」という問いかけは、ロングソードの切っ先で威圧されているとき同様に、役立つ質問であることを心に留めておいてください。