ダンジョン・ワールドを遊ぶことは、すなわち会話をするということです。ある人が何事かを口にして、あなたが返答し、たぶん他の誰かが口を挟むという具合に進行します。話す内容は物語、すなわちキャラクターたちの世界と、そこで起きることについてです。プレイを進めていくと、そこにルールも割り込んできます。ルールは世界の有り様に口出しします。ダンジョン・ワールドにターンやラウンドは存在しません。話す順番を規定するルールもありません。プレイヤーたちは、会話の自然な流れに従って代わる代わる話すことになります。常に、ある程度の言葉のキャッチボールが行われます。GMが何かを口にすると、プレイヤーが答え、プレイヤーが質問/宣言すると、GMは次に何が起きるのか述べるといった具合です。ダンジョン・ワールドはひとり芝居ではありません。常に会話という形をとるのです。
ルールはプレイにおける会話の方向付けを助けてくれます。GMとプレイヤーは話を進めつつ、同時にルールおよび物語とも対話することになります。全てのルールには、明確な物語上の切っ掛け(トリガー)が含まれ、いつ会話に割り込むことになるのかが記載されています。
会話の例にもれず、耳を傾ける時間は、喋る時間と同じくらい大切です。なぜなら、卓を囲む他者(GMと他のプレイヤー)によって確定されたディテールは、自分にとっても重要になるからです。そのディテールは実行可能なムーヴを変更したり、好機をもたらしたり、取り組むべき課題を生み出したりします。みんなが注意して耳を傾け、質問し、互いの発言を積み重ねてこそ、会話はうまく運ぶものです。
本章ではダンジョン・ワールドのプレイ方法全般を扱います。ルールがどのように立ち現れて、ゲームに寄与するのかといった、ゲームについての情報がわかるようになっています。また、ムーヴの実行のような共通ルールと、ダメージとヒットポイントの処理といった個別ルールの両方を取り上げます。
本章で取り扱われるルールの多くは、プレイヤー・キャラクターの能力値とその修正値を利用します。能力値とは、【筋力】、【耐久力】、【敏捷力】、【知力】、【判断力】、【魅力】のことです。能力値は、それぞれ3から18までの数値でプレイヤー・キャラクターのありのままの能力を表します。定命の人の子の最大値は18です。
各能力値には修正値が付随しており、その能力値でダイス・ロールする際に用いられます。能力修正値は、【STR】【CON】【DEX】【INT】【WIS】【CHA】という、3文字の略称によって記述されます。修正値は-3から+3までの数値をとります。修正値は必ず、現在の能力値スコアを元に導き出されます。
ダンジョン・ワールドにおける、最も基本的なルール単位がムーヴです。ムーヴは次のような体裁を取ります。
近接戦闘で敵1体を攻撃するなら、ダイス・ロール+【STR】。*10+なら、ダメージを与え、反撃をよける。反撃に身をさらす代わりに、ダメージに+1d6することを選択してもよい。*7-9なら、ダメージを与えるも、反撃されてしまう。
ムーヴとは、引き起こされる時(トリガー)と、その影響とを教えてくれるルールのことです。ムーヴは卓で共有されるフィクションにおける行動によって決まり、フィクションに必ず何らかの影響をもたらします。「フィクション」の意味するところは、ここで言われている行動と影響が、卓で語られ共有されるャラクターのいる世界から生じるということです。上記のムーヴにおいては「近接戦闘で敵1体を攻撃するなら」が引き金(トリガー)となります。文の続きが影響です。ダイス・ロールが行われ、その結果次第で物語への影響は異なったものとなるのです。
プレイヤーがキャラクターの行いを語り、それがムーヴを引き起こすものであった場合、ムーヴ処理が発生しルールが適用されます。ダイス・ロールを要するムーヴだった場合、振るダイスと結果の読み取り方が説明されているはずです。
キャラクターがムーヴを引き起こすフィクション上の行動を取ったなら、ムーヴの発生は避けられません。例えば、アイザックが「狂っように斧を振り回すオークの脇を駆け抜けて、扉を開ける」とGMに述べるなら、《危機打開》のムーヴを行うことになります。「目前の危難を顧みない行動をとる」ことが引き金(トリガー)だからです。アイザックは、《危機打開》ムーヴを伴うことなく、自キャラクターがオークの側を走り抜ける様を描写することができなかったのです。逆に、目前の危難を顧みない行動をとったり、災難を被ったのでなければ、《危機打開》ムーヴは引き起こされません。ムーヴとフィクションとは連動しているのです。
ムーヴが適用されたなら、同卓している全員は耳をそばだててください。そもそもムーヴが引き起こされるかがはっきりしないなら、一致協力して起こっていることを明らかにするのがいいでしょう。関与している一同に質問を投げかけ、全員が同じ状況認識に達してから、ダイス・ロールの要不要を決めるのです。
GMのモンスター、NPC、その他諸々の忌まわしき存在も同じく、ムーヴを有するものの、仕組みは異なります。
ほとんどのムーヴには「ダイス・ロール+x」というフレーズが盛り込まれており、「x」にはキャラクターの能力修正値(例えば【CON】)が入ります。ムーヴが別の方法を指示しない限り、「ダイス・ロール」とは常に、6面体ダイス2つを振り、出目合計を修正値に加えることを指します。また、ムーヴの中には、能力修正値ではなく他の値をロールに加えるものもあります。
「ロール+【STR】」の求められるムーヴを行う。自分のSTR修正値は+1。6面体ダイスを2つ振って、出目は1と4だった。合計は6となる。
結果はいつも基本的な3分類のいずれかに割り当てられます。合計が10以上(10+と記述)なら最善の結果となります。合計が7から9(7-9)なら成功はするものの、妥協や代償を伴うものとなります。6以下(6-)なら厄介な事態となるものの、XPを獲得します。
10+と7-9の場合に何が起きるのかは、各ムーヴに指示されています。大多数のムーヴには、6-の場合に何が起きるのか書かれていません。GM次第だからです。ともあれ、必ずXPの獲得は発生します。
ダメージ・ ロールは少し違います。誰が/何がダメージを与えるかによって、用いるダイスが異なるのです。
基本的な結果
キャラクターの装備品の最も重要な役目は、ムーヴ行使の描写を助けることです。武器を持たないキャラクターは、ドラゴンと戦うに際して《ハックアンドスラッシュ》ムーヴを引き起こせません。素手の殴打では厚みある鱗に全く歯が立たないからです。ムーヴを引き起こすための行いとしては不十分ということになります。
同様に、装備によりムーヴの誘発が回避されることもあるでしょう。切りたった氷の崖を登ることは、通常《危機打開》となりますが、適切な登攀用具一式があれば、ムーヴを引き起こす目前の危険や災難を回避することができるかもしれません。
武器はとりわけ、引き起こせるムーヴを限定することが起こりえます。ダガーを持ったキャラクターは、足にかじりつくゴブリンを突き刺し、容易に《ハックアンドスラッシュ》を引き起こせます。けれども、ハルバードを手にしたキャラクターが、そこまで密着した敵へと武器を向けるのは、ずっと困難です。
あらゆる種類のアイテムと装備はタグを有します。タグとは物事を語るための用語のことです。中にはルールに具体的な影響を与えるタグもあります(防具によるダメージの減少、あるいは特定のムーヴや能力値への魔法的ボーナスといったもの)。他方、もっぱら物語に携わるタグもあります(例として[近接]タグは、武器の長さと、攻撃にはどれぐらい近づく必要があるのかを表す)。タグは、アイテムが用いられるに際して、キャラクターの行動を語る一助となります。そして、ダイス・ロールが不首尾に終わった際、使用したアイテムがどのような事態の悪化や複雑化をもたらしうるか、その手掛かりをGMにもたらしてくれるのです。
ムーヴの影響は必ず、キャラクターが住まうフィクション上の世界に関わるものとなります。《ハックアンドスラッシュ》で10+を出すことは、単なるメカニズム上の影響を表すのではなく、攻撃の成功とある種の損害を与えることを意味するのです。
ムーヴの影響がどのようなものか把握したなら、物語に反映させて、会話に戻りましょう。必ずゲーム内で起きている出来事へと回帰させてください。
中には即座にルール的な影響を及ぼすムーヴもあります。ダメージを与えたり、次の他者のロールにボーナスを与えるなどです。こういった影響も例外なく、キャラクターが身を置く物語世界に反映されます。ムーヴの影響を語るときは、必ず物語の文脈(フィクション)を用いるようにしましょう。
…ダメージを与えるという言い回しを用います。これは、クラスのダメージ・ダイスを振ることを指します。武器によってはダメージが増減することもあるでしょう。理にかなった形で目標を傷つけうる攻撃を行うなら、ダメージ・ダイスを用いることになります。通常、ダメージダイスは武器の行使を前提としているますが、適切な訓練や珍しい状況を伴うなら、拳も武器となり得ます。
…〔次回+1〕と指示します。これは次のムーヴのダイス・ロールに+1することを意味します(ダメージを除く)。ボーナスは+1より大きくなることもあれば、-1のようなペナルティにもなり得ます。たとえば「《ハックアンドスラッシュ》に〔次回+1〕」などのように、条件が付くこともあるでしょう。この場合、ボーナスは次に《ハックアンドスラッシュ》を振る時にのみ適用されます。他のムーヴでは利用できません。
…〔継続+1〕と指示します。これはあらゆるムーヴのロール(ダメージを除く)に+1を得るという意味です。ボーナスは+1よりも大きくなることもあるし、-1のようなペナルティになることもあるでしょう。条件が存在する可能性もあります。例えば「《射撃》に〔継続+1〕を得る」などです。継続的なボーナスにはどうなれば終了するのかも記述されています。「呪文を解除するまで」や「神に償うまで」といった具合です。
…〔ホールド〕を与えてくれます。〔ホールド〕は、ムーヴに説明されているやり方で消費することにより、後から選択が行えるようになる、ある種の通貨です。〔ホールド〕は必ず、それを生み出したムーヴ専用になります。例えば、《防御》で獲得した〔ホールド〕を《トラップの専門家》の〔ホールド〕消費にあてたり、その逆はできないわけです。
…選択を提示します。あらゆるムーヴの影響と同じように、行った選択が、ルール的なエフェクトに加えて、物語の中で起こる物事を決定するのです。《ハックアンドスラッシュ》の結果が10+のときの選択として、隙を見せるという代償を払うことで追加ダメージを与えることにしたなら、それがまさにキャラクターに起こるわけです。十分に優位に立っているところで、安全策をとることも、欲を出すこともできるわけです。
…自らのキャラクターとその過去にまつわることを口にする機会を与えてくれます。《物言う知見》を行うとき、GMが明らかにした情報をどのようにして知ったのかと聞かれるかもしれません。この機をとらえてゲームに貢献しつつ、己のキャラクターが実際はどのような人物であるのかを示しましょう。ちゃんと既成の事実を踏まえ、これまでに述べられたことと矛盾しないよう心がけてください。
…XPを獲得すると指示します。これは、現在のXP合計値に1を加えることを指します。
切り傷、打ち身に、致命傷は、ダンジョン・ワールドに立ち向かう冒険者にとってありふれた危機です。プレイしているうちに、プレイヤー・キャラクターはダメージを受け、治療されることになります。時には死ぬ可能性すらあります。キャラクターの健康状態は、そのヒットポイント(HP)によって判断されます。HPからダメージが差し引かれるのです。適切な状況に置かれるか、医術や魔法の助けによって、ダメージは治療され、HPは回復します。
キャラクターのHPは、そのスタミナ、耐久性、健康状態の目安です。高いHPは、キャラクターが死神の冷淡な凝視と相まみえるまでに、より長く戦い、より多くの外傷に耐えられることを意味します。
クラスにより最大HPが決まります。同様に、耐久力(修正値ではなく能力値そのもの)も関係します。高い耐久力は、より多くのHPに繋がるわけです。プレイ中、耐久力が恒久的に変化したなら、新たな耐久力の値を反映する形でHPを調整することになります。耐久力が変化しない限り、最大HPは変わりません。
キャラクターがダメージを受けたなら、現在HPから与えられたダメージが差し引かれます。[アーマー]はダメージを軽減します。もしキャラクターがアーマーを有しているなら、その値を与えられたダメージから差し引くことになります。これにより攻撃を完全に食い止めるという結果になるかもしれませんが、それでかまわないのです。それこそがアーマーの目的とするところなのですから。また、ダメージにより、キャラクターのHPが0を下回ることはありません。
ダメージは攻撃するものによって決まります。プレイヤー・キャラクターは、そのクラス、使用している武器、行ったムーヴに応じたダメージを与えます。
単に「ダメージを与える」とムーヴに書かれているなら、キャラクターはそのクラスのダメージ・ダイスを振って、ムーヴ/武器/効果によるボーナスやペナルティがあるなら加えてください。ただし、ムーヴがダメージの量を明記しているなら、クラスのダメージ・ロールの代わりに用いることになります。
モンスターは、その説明に記載されたダメージを振ります。モンスターが誰かを傷つける直接的な行動を取るときはいつでも、このダメージを用いてください。モンスターが通常攻撃とは異なる手段を用いたときも、そうします。
他のダメージ源(倒壊する塔の残骸が当たるなど)は、次のオプションに基づいて、GMに委ねられます:
発生源が著しく巨大だったり、魔法や毒によってもたらされたりしたダメージには、[アーマー無効]のタグを追加します。
一時的な守り、あるいは状況を利用した防壁は、身につけているアーマーと同じように機能します:部分遮蔽なら1アーマー、十分な遮蔽なら2アーマーです。
ダメージは物語の文脈(フィクション)を踏まえて与えられます。《ハックアンドスラッシュ》のように、ダメージを与えるムーヴは、特例に過ぎません。このムーヴは、物語におけるダメージを与える行為を、確定的なものとするのです。物語の流れ(フィクション)から生じたダメージであれば、ムーヴに依らず加えられるかもしれません。
HPの喪失は大抵の場合、効果の一部に過ぎません。落とし穴に転落のような負傷が適用されたなら、HPの喪失がたぶん起こりうる全てでしょう。オークに腕を引っ張っられたことで脱臼するという風に、負傷が具体的なものなら、HPはその影響の一部ではあっても、全部ではありません。より大きな問題は、動かなくなったばかりの腕への対処です。どのようにして剣を振り回したり、呪文を詠唱したりできるようになるのでしょうか? 同じように、頭部が切断されることは、HPダメージではありません。ただ死亡するのみです。
単身戦闘に身を投じるのは、勇敢なモンスターの所業です。大部分のクリーチャーは側にいるものと一緒に戦ったり、背中を守り合ったり、場合によっては射手が後方から援護射撃したりするでしょう。これにより複数のモンスターが同時にダメージを与えるということがおこるかもしれません。
複数のクリーチャーが同時に攻撃を行った場合、そのうち一番高いダメージ・ダイスを振り、そこに2体目以降のモンスター1体につき+1ダメージを加えます。
ゴブリン・オーキャスター([d10+1ダメージ][アーマー無効])と、ゴブリン([d6ダメージ])3体は全員、各々の武器を投げつける。オーキャスターは魔法の酸の球を、残りは投げ槍を、彼らのバリケードに攻撃を仕掛けているルクスめがけて。私(GM)は最も高いダメージであるd10+1[アーマー無効]をロールして、他のゴブリン3体の代わりに+3ダメージする。全てを合計して、投げ槍によるかすり傷から酸が染み込んでくるので、アーマー無効の9ダメージを受けるとルクスに伝える。
スタン・ダメージは、非殺傷ダメージを指します。スタン・ダメージを食らったPCは、何か行動を起こすなら《危機打開》する羽目になります。危険は「スタン状態に置かれる」ことです。これは物語の文脈(フィクション)において理にかなっている限りは継続します。頭をはっきりさせる機会を設けるか、スタンを引き起こしている原因に対処するまでの間、スタン状態に置かれてしまうのです。スタン・ダメージを受けたGMのキャラクターは、HPを喪失することこそありませんが、数秒ほどよろめく、やみくもにヘマをやらかすなど、それに応じた行動を取ります。
ムーヴがダメージを追加するよう指示するなら、ダイスの出目にそのダメージを加算します。(「+1d4ダメージ」のように)ダイスを加えるよう記述されている場合、追加のダイスを振って、その出目を合計に加えてください。
ダメージの減少も同じ処理です。出目合計からその数値を差し引いてください。(「-1d6ダメージ」のように)ダイスで減少するように書かれている場合、そのダイスの出目を元の合計から差し引くことになります。ダメージがマイナスになることはありません。最小は0ダメージです。
モンスターとムーヴの中には、ダメージを複数回振って、最大の出目あるいは最小の出目を採用させるものもあります。この場合、通常通りにダイスを振るものの、最大値(あるいは最小値)だけが適用されます。
もしモンスターが自らのd6ダメージを2回振り、最大値を採用するなら、b[2d6]と記述されます。b[]の意味するところは「best」です。同様にw[]は「worst」を表します。そのため、w[3d10]は、「ダメージのためにd10を3回振って、最小値を採用する」ことになります。
ダンジョン・ワールドにおける治癒には2通りあります。医療による助けと時間の経過です。
医療の助力には、魔法的なものと一般的なものの両方が含まれ、ムーヴやアイテムの使用に応じてダメージを治療します。ムーヴにはHPを完全に回復するものもあれば、戦闘が終わるまでギリギリ持ちこたえさせる程度の癒やしをもたらすものもあります。
プレイヤー・キャラクターが休息をとって、傷を悪化させるような行動をとらないならば、傷は癒えます。治癒量は適用されるムーヴに記載されています。危険区域での一夜なら《キャンプ》、文明の根ざす地に滞在するなら《回復》です。
治癒要因が何であれ、キャラクターのHPが最大値を上回ることはありません。
死はあらゆる戦いの片隅より忍び寄ります。HPを0まで減少させられたキャラクターは、即座に《死に際》を行うことになります。死は庶民も王も分け隔てなく訪います。故に、《死に際》のダイス・ロールには能力修正値が加算されません。
死の黒き門の向こう側に何が広がっているのか知るものはいませんが、死のしろしめす地においては、現世次元界の秘密の多くが露わになるとされています。命を落としたなら、それを垣間見ることになるかもしれません。
死神は、簡素なものから損失の大きなものまで、なんらかの取引を提示してきます。死神は気まぐれであり、将来的な支援を求めることもあれば、犠牲を強いることもあります。死神は捧げものを要求するかもしれませんし、奇妙で一見無害なことを求めるかもしれません。死神の気まぐれは予測不能です。
《死に際》の結果次第で、プレイヤー・キャラクターは一命を取り留めるかもしれません。命拾いしたプレイヤー・キャラクターは0HPのまま、生きて意識を失った状態に置かれます。治癒されたなら、意識を取り戻し、戦闘に復帰したり安全な場所を探したりできるようになります。命拾いしたキャラクターが再度ダメージを受けた場合、もう一度《死に際》を招くことになり、死神との対面へと戻されてしまいます。
冒険者として生きることは容易くありません。研ぎ澄まされた剣と共に荒れ野に身を置き、モンスターどもとに囲まれながら過ごす、寒々しい夜も同じだからです。遅かれ早かれ、冒険者は黒き門への長き道のりを歩き、命の終焉を迎えることになるでしょう。そこに留まることをよしとせよという意味ではありません。死もまた独自の方法で、打破すべき難問に過ぎないのですから。冒険者は死しても、蘇る可能性があるのです。
自らのキャラクターが死亡した場合、GMと他のプレイヤーたちに蘇生を試みるよう頼むことができます。哀れな死せるキャラクターが命を取り戻すためにはどのような対価が必要なのかを、GMが述べるでしょう。GMの示した必要条件を満たしたなら、そのキャラクターは生き返ります。〈リザレクション〉の呪文はこの特例です。この魔法の呪文は、仲間を復帰させる近道をもたらすものですが、それでもGMには口出しする権利があります。
蘇生の見込みを問わず、差し当たっては新たなキャラクターを作成することになります。傭人の1人が、すべての苦楽を共にして実働の一翼を担うに値する一人前の冒険者になるのかもしれません。仲間のプレイヤー・キャラクターが小農場にて、進んで一行に加わろうとする新たな友を見出すのかもしれません。死んだキャラクターには、直ちに剣や呪文を手に取って起きたことを正そうとする、復讐心に燃える家族がいるのかもしれません。どんな場合でも、通常の1レベル・キャラクターを作るのと同じ方法で、新たなキャラクターを作成してください。もし元のキャラクターが生き返ったなら、該当プレイヤーはどちらのキャラクターでもプレイできるようになります。好きなように切り替えることが可能です(無理のない限りは)。
GMは、仲間を呼び戻すために為すべきことを述べるとき、現在のゲームの流れを脱線させるのではと、気を揉むかもしれません。世界についてGMが知っていることを、その為すべきことに組み入れましょう。これは焦点を変更したり、披露を待ちわびていた要素を導入する絶好の機会となります。壮大で叙事詩的な探求にせねば、と気負わなくともよいのです。キャラクターがゴブリンの矛に突き刺されて死んだなら、拠点へと無様に歩いて帰り、地元の神殿に金貨数千枚を寄付するだけで事足りるかもしれません。こういった慈善的な行いから派生する出来事、そしてそれが世界にどのような影響を与えうるかを考えてみましょう。ただし、お忘れなく。死神は自らの領域から盗み去られた魂のことを、忘れ去ったりはしないということを。
HPの喪失は漠然としています。疲労を蓄積させ、打撲傷を負い、切り傷を受ける、といった扱いです。けれども、傷の中にはより深刻なものもあります。次の能力減退です。
衰弱(STR):十分な腕力を振るうことができない。単に疲労しているか傷を負っているだけかもしれないし、体力が魔法によって抜き取られているのかもしれない。
身震い(DEX):足元がふらつき、手が震える。
不調(CON):体内のどこかの調子がすこぶる悪い。病気や消耗性疾患にかかっているのかもしれない。前夜エール酒を飲み過ぎて、二日酔いを起こしているだけという可能性もある。
目眩(INT):先の頭部への衝撃で、頭がふらふらする。脳があまり働かない。
散漫(WIS):耳鳴りがする。視界がぼやける。かなりボーッとしている。
傷跡(CHA):長続きするものではないだろうが、当面は見栄えがあまりよくない。
あらゆる攻撃が能力減退を負わせるわけではありません。ほとんどの場合、魔法や毒によるものか、ヴァンパイアに血を吸われるなどの面妖な状況に伴うものです。能力減退はそれぞれ、能力値の1つと紐付けられており、能力修正値に-1のペナルティを与えます。能力値のスコアは影響を受けないので、不調時の最大HPの変化を気にかける必要がありません。
同じ能力減退は重複しません。既に不調を受けている状態で、不調を引き起こすことが起きても、無視してください。
能力減退はHPよりも治すのが難しくなります。高レベルの魔法の中にはそれが行えるものもありますが、確実なのはどこかに安全な場所を確保して、柔らかく暖かなベッドで数日を過ごすことです。もちろん、能力減退は描写的かつルール的な代物です。もし能力減退を取り除く何かが起きたなら、その能力減退は解消されます。
能力減退は、描写や、卓で共有されている物語の活用に取って代わるものではありません。片腕を失ったとしても、その人物が衰弱を受けるわけではないのです。腕が一本少ないというだけです。GMは能力減退の枠にとらわれすぎないでください。特異な病は、頭に思い描いたどのような効果でも持ちうるのです。汚れたネズミから感染した名もなき熱病を言い換えるのに、「不調」はうってつけなだけです。
ダンジョン・ワールドは幻想的な場所です。そこにはぬかるみ、鮮血、酒場でのエール酒以上のものがあります。純粋な四元素の魔術で呼び出される火と風や、健康、力、天罰を求める祈りがそうです。「魔法」とは、人や獣のちからに由来する能力ではなく、それらを超越したちからを根源とするものに冠される名称です。
クラスの中には、クレリックやウィザードのように、呪文を使用できるものがあります。固有の魔法の力は、神への服従あるいは難儀な研究からもたらされる恩恵です。呪文はそれぞれ、名称、タグ、レベル、効果を有します。
魔法の基本的な実行順序は、修得、準備、詠唱、呪文の忘却、となります。
修得済みの呪文とは、スペルキャスターが準備できる程度に精通した呪文のことです。クレリックは自らのレベル以下のクレリック呪文全てを修得しています。そこにはロウト(典礼)も含まれます。ウィザードは最初にキャントリップ(小魔術)と1レベルの呪文を3つ修得します。ウィザードはレベルアップ時に、新たな呪文を1つ取得します。ウィザードは修得済みの呪文を自らの呪文書に蓄積します。
たとえスペルキャスターが呪文を習得していたとしても、事前に準備しておかなければ、詠唱できません。《神との語らい》と《呪文の準備》にて説明されている通り、ある程度の時間をかけて集中することで、スペルキャスターは合計レベルが「術者のレベル+1」までの修得済み呪文を選び、準備することができます。ウィザードは常にキャントリップを、クレリックは常にロウトを準備している扱いとなります。準備された呪文はいつでも詠唱可能です。
呪文の詠唱は、神へ呼びかけ、魔力の集積、身ぶり手ぶり、超自然的なちからへの嘆願などを伴います。呪文をかけるために、通常は《呪文詠唱》のムーヴを行うことになるでしょう。10+なら呪文は効力を発揮します。7-9なら術者は困難な状況に置かれ、選択を行う必要があるものの、それでも呪文は詠唱されます。呪文には継続型のものもあります。唱えられたなら、なんらかの事情で終了するまでのあいだ、効果が続く呪文のことです。
結果が7-9時の選択肢の1つには、その呪文が取りあげられる、あるいは忘却してしまうというものがあります。取りあげられた/忘却した呪文は、いぜん修得済みですが、もはや準備された状態ではなくなり、それゆえ詠唱不能となります。術者は次に《神との語らい》/《呪文の準備》を行うときに、再び同じ呪文を選ぶことができます。
ダンジョン・ワールドは絶え間なく変わり続けます。キャラクターもまた変化します。冒険が進展するにつれ、プレイヤー・キャラクターは経験値(XP)を獲得し、それによってレベルアップが可能となるのです。これこそが、より大きな危機、大規模な冒険、壮大な偉業への備えとなるわけです。
成長には、ダンジョン・ワールドにおける他の全ての要素と同じく、ルールと描写の2通りあります。ルール面の成長とは、プレイヤーがキャラクターシートに変更を加えることで、そのキャラクターが物語の中(フィクション)でも変化することを指します。描写面の成長とは、物語の中(フィクション)でキャラクターが変化することにより、それに合致するよう、そのプレイヤーがキャラクターシートにも変更を加える必要が生じることを意味します。
このことは、プレイヤー/GMにとって、利益でも損失でもありません。より強大な力を得たり、取りあげたりするための口実ではないのです。ただダンジョン・ワールドにおける人生を反映しているに過ぎません。
エイヴォンは、ウィザードであるにも関わらず、深遠なる知恵の神たるレノーラルの興味を惹いた。レノーラルの化身による祝福を受け、教会で誓いの言葉を述べた後、エイヴォンは神に見守られることとなった。彼はクレリックと同じように、嘆願を行い恩恵を得ることができるようになる。
オーセン王を永久の責め苦から救うための大いなる代償として、グレガーは自らの《類い希なる武器》である、オークの血によって鍛え上げられた緑の鋼の斧を差しだした。斧なくしては、《類い希なる武器》の恩恵を一切受けることができない。取り戻すことがかなえば、恩恵を再度利用できるようになるだろう。
描写面での変化は、キャラクターが明らかな形で能力を会得したときのみ発生します。プレイヤー1人の判断に委ねてしまってよいものではありません。キャラクターが新たな能力を獲得したと思ったなら、参加しているみんなに検討してもらいましょう。
ダンジョン・ワールドをプレイすることで、何にもまして「探索」「危険な敵との戦闘」「宝物の収集」という3つの行いに手を染めることになるでしょう。これらの行いはそれぞれ、セッション終了時にXPで報いられることになります。属性に従って行動し、属性ムーヴの条件を満たすことも同じく、セッション終了時にXPが与えられます。縁故を解決して、新たな縁故をつくることでもXPを獲得することになります。ダイス・ロール結果が6以下ならいつでも、すぐさまXPを獲得します。GMは満たすことでXPが獲得できる特別な条件を設けることができますし、世界のあり方を反映してコアのルールに手を加えることも可能です。GMはプレイ前に、そのことを教えてくれるでしょう。
プレイヤー・キャラクターが安全を確保して休息する機会を得たなら、《レベルアップ》ムーヴを行い、レベルの上昇と新たなムーヴの獲得を実施することになります。
マルチクラス・ムーヴにより、他のクラスのムーヴを修得できるようになります。プレイヤー・キャラクターのレベル以下の好きなムーヴを選択取得できるのです。マルチクラスで修得する際は、開始時からクラスが有する相互依存関係のあるムーヴを、1つのムーヴと見なします。例えば、ウィザードの《呪文詠唱》《呪文書》《呪文の準備》は1つのムーヴ扱いになるわけです。他のクラスのムーヴがキャラクターのレベルを参照する場合、そのクラスから最初にムーヴを取得した時点を1レベルとして、その後のレベルアップ回数を加えた値を用いてください。
高レベルで取得できるムーヴの中には、他のムーヴを前提条件とするものがあります。「必要条件」や「置き換え」という語と共に別のムーヴ名が記載されているムーヴは、前提となるムーヴを所持している場合のみ取得可能です。
他のムーヴを必要条件とするムーヴは、必要なムーヴを既に持っているときのみ取得できます。その結果、両方を有することになり、両方が適用されるのです。
他のムーヴと置き換えられるムーヴは、置き換え対象のムーヴを既に所持しているときのみ取得できます。置き換えられたムーヴを利用することはできなくなり、新たなムーヴの方だけを有することになります。新たなムーヴは大抵、置き換えられたムーヴの恩恵を全て含んでいます。防護1点を付与してくれるムーヴを置き換えて、防護2点を与えてくれるムーヴを獲得する、みたいになります。
レベル10に到達したなら、状況が少し変わります。レベル11に到達するに足るXPを得た場合、レベルアップの代わりに次から1つ選んでください:
引退するなら、代わりにプレイする新規キャラクターを作成し、GMと協力して引退したキャラクターが世界の中でどういう位置につくのかを固めます。弟子をとるなら、現在のキャラクターと同時に、新規のキャラクターをプレイしてください。現在のキャラクターがXPを得ることはなくなります。クラスを変更しても、能力値、種族、HP、キャラクターの中核をなしているとプレイヤーとGMが同意したムーヴは保持することになります。その他のクラス・ムーヴは全て失われ、代わりに新たなクラスの初期ムーヴを獲得するのです。
キャラクターたちを、でたらめな寄せ集めとはひと味違う、冒険者パーティたらしめるのが縁故です。彼らは互いを結び付ける、感情、考え方、共通の過去を持っているのです。少なくとも1つ、大抵はそれ以上の縁故を有することになるでしょう。
縁故はそれぞれ、自分と他のプレイヤー・キャラクターとを関連づける簡素な説明からなります。まずはクラスによっていくつかもたらされ、プレイを通して、開始時の縁故を入れ替えたり、新たな縁故を得たりすることになるでしょう。
セッション終了時、縁故を1つ解決することができます。縁故が解決されるかは、縁故を所持しているキャラクターのプレイヤーと、分かち合っているキャラクターのプレイヤーの両名によって決まります。この縁故は解決されているのではないかと前者が提案し、後者が同意したなら、解決となるのです。自分の縁故を解決したなら、1XPを獲得します。
対象との関係を説明するのにもはや適さなくなったときに、縁故は解決されます。状況が変化したことが原因かもしれません。例えば、セリアンは、以前はよく背中を守ってくれたけれど、彼にゴブリンの群れの中に置き去りにされて以来、それほど信頼できなくなった、といった場合です。あるいは、もはや解決すべき問題ではなくなったことが原因かもしれません。例えば、かつてウェスリーを案内して貸しを作っていたが、危機一髪のところを呪文により救われたことで、借りを返してもらった、といった場合です。どんなときであれ、縁故を見直して「もはや自分たちの関係性をあまり反映していない」と思ったなら、その縁故を解決するにふさわしい頃合いです。
キャラクター作成時に残しておいた未記入の縁故があるなら、気が向いた時にいつでも空欄に名前を割り当てたり、未記入分1つの代わりに新たな縁故を1つ書き入れることができます。そのようにしてもXPは得られないものの、将来の解決を見据えたより明確な縁故を取得できることでしょう。
既存の縁故を解決したときはいつも、新たな縁故を作成することになります。新たな縁故は同じキャラクターとのものにしてもよいですし、変えてもかまいません。
新たな縁故を書く際は、他のプレイヤー・キャラクターを1名選んでください。そして、前回のセッションに関わる出来事を選定しましょう。共に旅した場所かもしれないし、発見した宝物かもしれません。キャラクターの抱いた両者を結び付ける見解や意見を1つと、行動を1つ選んでください。対処する意志の伴うものにしましょう。最終的には次のようなものになるでしょう:
マウスのとっさの判断が、対峙したホワイト・ドラゴンから自分を救った。彼女には頼み事1回分の借りがある。
エイヴォンはザクス・タカルのダンジョンにおいて、臆病さを露わにした。彼はパーティに危機をもたらす傾向があるので、見守らねばならない。
谷間のノームたちに対するヴァレリアの優しさは、私の心を動かした。自分が、彼女の考えるような冷淡で悪辣な人間ではないことを、示すつもりだ。
ゾートックは詐術を用いて骨と囁きの斧を勝ち取った! 必ずやかの斧を我がものにしてみせよう。
こういった新たな縁故の扱いは、それまでのものと同じです。生かして、解決して、入れ替えていきましょう。
属性とはキャラクターの思考様式や道徳的指針のことです。キャラクターにとって、これは道徳上の理想や、信仰による制限かもしれません。単なる感情的本能という可能性もあります。属性はプレイヤー・キャラクターが目指すことを示してくれる上に、次に何をすべきか分からなくなったときの指標ともなりえます。キャラクターによっては自らの属性を堂々と公言するものもいれば、隠匿するものもいるでしょう。「私は悪人だ」などと口にするキャラクターはいないでしょうが、「自分のことを最優先する」とは言うかもしれません。あるキャラクターにとっては仕方がないことであっても、世間の人々は異なる理解を示すというわけです。心の奥底に埋もれているのは、こうありたいと望む理想的な自己像です。特定の呪文や能力が他者の属性を看破する際に触れるのは、この不可解な本質です。ダンジョン・ワールドに住まう意識を持つ生物はことごとく、属性を帯びています。エルフであれ、ヒューマンであれ、あるいはその他の、異質な存在であれ。
属性としては、善、秩序、中立、混沌、悪、があげられます。それぞれが表すのは、種類の異なる人格になろうとする願望です。
秩序の存在は、世界に規律をもたらすことを望みます。自らのために、あるいは他者のために。混沌の存在は変化を受け入れ、かき乱された世界の実相を理想として、何にもまして自由に重きを置きます。善の存在は、自分よりも他者を優先しようと努めます。悪の存在は、他者を食い物にすることで自らを最優先します。
中立の存在は、他者の幸福を危険にさらさない限りは、自己保身に走ります。中立のキャラクターは、人生を謳歌し、目的を追求し、他者に同様の振る舞いをさせることに喜びを見出すのです。
ほとんどの存在は中立です。他者を害することを特に喜んだりはしないものの、状況次第ではそういった行動を取るかもしれません。己よりも理念を優先するなんて、(優先するのが秩序、混沌、善、悪のいずれであれ)理解に苦しみます。
同じ属性の存在のあいだでさえも衝突は発生しえます。他者を助けようとする意欲ですら、絶対確実なことはありません。2体の善なる存在が、正しいことをなすための手法についての異なる見解を巡って戦い、死に至ることすらあるでしょう。
属性は変更可能だし、変化しうるものです。通常そういった変化は、徐々に決定的瞬間へと移行する形で起こります。キャラクターの世界観が根底からくつがえってしまったときはいつでも、新たな属性を選ぶことができます。該当キャラクターのプレイヤーは、他のプレイヤーを納得させるだけの変化の理由を示す必要があります。
場合によっては、プレイヤー・キャラクターは属性を維持したまま、属性ムーヴを差し替えることになるかもしれません。これは、大規模な考え方の変移ではなく、優先順位の変容といったより小さな変化を表します。同じ属性の新たなムーヴを次から選び、何故このキャラクターがそれを重要なものとみなすようになったのかを述べるだけでかまいません。
秩序
善
中立
混沌
悪
傭人とは、金/栄光/奇妙な求めのために、冒険者に同伴し、意を決して薄暗がりと危険の中へと足を踏み入れる、気の毒な人々のことです。彼らは無謀にも、冒険者として名をあげようとしています。
傭人は狭い範囲の目的に役立ちます。プレイヤー・キャラクターにとって、彼らは助けとなる存在です。傭人は支払いと引き替えに、プレイヤー・キャラクターの取り組みにその力を貸してくれるのです。プレイヤーにとっては、リソースです。傭人はキャラクターたちのために、心胆を寒からしめる危険な存在すら相手取って、時間を稼いでくれるのですから。また、プレイヤー・キャラクターの交代要員でもあります。プレイヤー・キャラクターが倒れたときに、英雄の役割を引き受けるべく待機しているわけです。GMにとって彼らは、地下深くや次元界の奥地にあるときでさえ、プレイヤー・キャラクターたちに向けて人間臭さを発露させる存在です。
傭人は英雄ではありません。傭人はプレイヤー・キャラクターの交代要員として英雄になり得ますが、そのときが来るまではGMのキャラクターのひとりに過ぎないのです。なので、HP、アーマー、ダメージといった詳細は別に重要ではありません。傭人はスキル、コスト、忠誠心の値によって表されます。
傭人のスキルはプレイヤー・キャラクターたちに特別な恩恵をもたらします。ほとんどのスキルはクラスの能力に結びついたものであり、傭人が特定のクラスを代行できるようになっています。レンジャーがいないのに、なんとしても暗殺者がトーシーから脱出した経路を追跡せざるを得ないなら、トラッカーが必要になります。スキルには、通常1から10のランクがあります。ランクが高ければ高いほど、その傭人は訓練されていることになります。通常、傭人は自らの最も高いスキル・レベル以上の、レベルを持つ冒険者のためにのみ働きます。
スキルは傭人が実行可能な事柄に制限を加えるものではありません。その能力にシステム的な裏付けを提供するに過ぎないのです。プロテクターのスキルを持つ傭人であっても、荷物を持ち運んだり、トラップをチェックすることはできます。けれども、その結果はルール的に保証されません。完全に状況とGMに委ねられています。明らかに傭人の能力を超える何かをさせようと行かせる、厄介ごとを降りかからせてくれとGMに頼むも同じです。
無償で働く傭人はいません。傭人のコストが、彼らをプレイヤーキャラクターのもとに留めておくのにかかる費用となります。傭人のコストが定期的(通常1セッションに1回)に支払われない場合、彼らは去るか、雇い主に楯突く恐れがあります。
傭人に脚光が当たる場合、プレイヤーは《傭人への命令》ムーヴを行う必要が生じるかもしれません。このムーヴには、引き起こした傭人の忠誠心を用います。
傭人は命じられたことを行う。その命令が、明白に危険/不面目/馬鹿げたものではなく、かつ彼らのコストに満たす限りは。命令によって、危険な/不面目な/徹頭徹尾まともではない状況に置かれたことに傭人が気づいたなら、ダイス・ロール+忠誠心。10+なら、傭人は断固たる態度で命令を遂行する。7-9なら、傭人は差し当たって命令を実行するが、後で多大な要求を突きつけてくる。応じなければ、最悪の労働環境に置かれた傭人は去ってしまう。
傭人はその場で簡単に作れます。誰かがプレイヤーに雇われの身となるときは、その名前、同意したコスト、同じく所有するスキルを書き留めましょう。
初期の能力総計は、その傭人をどこで見つけたのかによります。村の傭人の初期は2-5点、街の傭人は4-6点、砦の傭人は5-8点、都市の傭人は6-10点となります。傭人の能力総計を、忠誠心、主要スキル(ひとつ)と副次スキル(0個以上)に割り当ててください。通常は、雇ったPCのレベルが、スキルの上限値となります。開始時の忠誠心が2を超えるか0を下回ることはまれです。その傭人用のコストを選択すれば、できあがりです。
傭人の能力値、とりわけ忠誠心は、プレイ中の出来事を反映して変化するかもしれません。プレイヤー・キャラクターからの特別の計らいや手当は、忠誠心〔次回+1〕に値します。軽んじられたなら忠誠心に〔次回-1〕がつきます。前回その傭人にコストを払ってから時間が空いているなら、コストが満たされるまでのあいだは忠誠心に〔継続-1〕されてしまいます。傭人の忠誠心は、プレイヤー・キャラクターと一緒に偉業を成し遂げたとき、恒久的に上昇するかもしれません。逆に重大な失敗や大損失は、傭人の忠誠心を恒久的に引き下げる可能性があります。
傭人を作成する際は、次のスキルの中から1つ以上を選びポイントを割り振ってください。
アデプト
アデプトは曲がりなりにも秘術の専門家に弟子入りしているものの、独り立ちできるほどの力はない。秘術界の大学院生といったところだ。
秘術の手伝い:アデプトが自らのスキル・レベル以下の呪文詠唱を手助けするなら、その呪文の効果は、より広い射程/長い持続時間/大きな有効性を持つことになる。正確な効用は状況と呪文、そしてGM次第だ。呪文が詠唱される前に、その手助けがどのような効果を付与するのかをGMが説明することだろう。アデプトと共に詠唱することの最も重要な恩恵は、詠唱による負の影響がまずはアデプトに集中することだ。
バーグラー
バーグラーは幅広い分野に通じている。その大部分は違法、または物騒な分野だ。彼らは仕掛けとトラップに熟達しているが、戦場においてはさほど助けにならない。
経験に基づくトラップ解除:バーグラーが先導するなら、やがて高確率でトラップを発見することだろう。バーグラーが先導中にトラップが作動したなら、バーグラーは影響全てを被る代わりに、プレイヤー・キャラクターたちは対そのトラップに〔+スキル〕を得て、ダメージが発生したならバーグラーのスキル値をアーマーに加える。大抵のトラップは、バーグラーをすぐさま治療が必要な状態に置いてしまう。プレイヤー・キャラクターがトラップの近くで《キャンプ》する場合、バーグラーはキャンプが引き払われるときまでにそのトラップを解除することができる。
ミンストレル
ことを丸く収めたり、条件交渉のために、にこやかな顔が必要なら、ミンストレルは適正価格でいつでも喜んで手を貸してくれる。
英雄の歓待:ミンストレルを同伴して、食事/飲み会/もてなしの場に足を踏み入れるなら、その場にいる全員に友人として扱われることだろう(PCの行動が友人に相応しいものである限りは)。また、ミンストレルのスキル値を、街の相場価格から一律差し引くこと。
プリースト
プリーストは宗教に属する下位聖職者であり、小規模な宗教儀式と、日常的な礼典を執り行う。呪文こそ授けられていないが、自らの神に呼びかけちょっとした助力を得ることができる。
聖職者:プリーストを伴って《キャンプ》する際に、通常通り治癒が発生するなら、治るHPにスキル値を加える。
応急手当:プリーストが傷の止血を行うなら、対象のHPをスキル値x2だけ治癒できる。この治療は痛みを伴い注意散漫に陥らせてしまうので、対象は〔次回-1〕されてしまう。
プロテクター
プロテクターは、雇い主を傷つける可能性のある刃、牙、猛威、呪文などと、雇用者とのあいだに割って入る。
番兵:プロテクターがプレイヤー・キャラクターと、そこに向けられた攻撃とのあいだに割って入るなら、その攻撃に対するPCのアーマーはプロテクターのスキル値分上昇する。その結果、プロテクターは治癒を受けるか回復に時間を当てるまでのあいだ、スキル値が1減少する。
介在:プロテクターがプレイヤー・キャラクターの《危機打開》を手助けするなら、対象PCは助けを借りることで、そのダイス・ロールに+1することを選んでもよい。ただしそうしたなら、10+の結果を得ることができない。10+は、7-9として扱われる。
トラッカー
トラッカーは痕跡を追いかける秘訣を心得ているが、奇妙なクリーチャーとの接触や風変わりな場所へ踏み入るといった、偉大な狩人になるための経験を欠く。
追跡:《キャンプ》中に、トラッカーが痕跡を詳しく調べる時間を与えられたなら、キャンプを引き払うときには、次に地形/移動方法/天候に大きな変化が生じるまでのあいだ、その痕跡を追うことが可能となる。
案内:トラッカーが先導するなら、トラッカーのスキル値以下の距離(=必要な保存食の数)の《危険に満ちた旅路》は自動成功となる。
ウォーリア
ウォーリアは戦闘に精通しているわけではないが、武器の扱いに長ける。
武装兵:ウォーリアの援助を受けているあいだに、対象のプレイヤー・キャラクターがダメージを負わせるなら、スキル値を与えるダメージに加えること。その攻撃が(反撃などの)よくない成り行きをもたらす場合、ウォーリアにも矛先が向く。
ここまでで基礎的な事柄は理解していただけたと思います。では、冒険者の生活が実際にはどのようなものであるかをひも解いていきましょう。冒険者は金貨と栄光にみちみちているとうそぶきます。時にそれは真実ですが、時には1枚でも多くの金貨を見つけようとアティアグの残骸を漁る羽目になることも意味しているのです。
冒険者として、多くの時間をダンジョンで過ごすことになるでしょう。「ダンジョン(地下牢)」という語は、囚人を閉じこめておく城の地下にある石造りの広間、というイメージを呼び起こします。けれども、実際には、危険と好機でいっぱいの場所ならどこであれダンジョンです。ドラゴンの洞窟、敵の野営地、忘れ去られた下水道、天空の城、世界の土台そのものなどが当てはまります。
ダンジョンに身を置く際は、そこが何者かの棲処であることを、何にもまして心に留めておきましょう。通路から番人を排除したからといって、代わりに新たな補充要員が来ない保証はありません。倒したモンスター、兵士、統率者にはいずこかに、友、仲間、手下、落とし子どもがいます。ダンジョンにおいては、何一つあてになりません。
ダンジョンは棲処なので、長期戦に備えた方がよいでしょう。保存食は最良の友です。ザー・ス・アルの大広間深くに潜るなら、日帰り旅行では済みません。足を踏み入れたなら、出入り口が塞がれてしまうことも起こりえます。たとえ、やすやすと抜け出せるときですら、それに費やす時間が敵に準備の猶予を与えてしまいます。ゴブリンどもは勇強でないものの、奴らに再集結とトラップを仕掛ける時間を与えてしまったならどうでしょう。
トラップといえば、そちらへの目配りも怠らないようにしましょう。この分野ではシーフが最良の友となります。落とし穴の罠に足を踏み入れたり、部屋が酸で満たされる前に、阻止することができるのですから。いなくても大事ないものの、じっくり時間をかけて特段の注意を払う必要が生じるでしょう。《事実の識別》によって場所を調査することは可能なものの、腕の立つシーフに比べればずっと多くの危険を背負い込むことになります。
運悪くトラップを動作させてしまっても、そこから離れたり、大急ぎで守りの呪文を放ったり、友人を救ったりする機会はあるかもしれません。大抵は《危機打開》によって。もちろん、全てのトラップが避ける猶予を与えてくれるほど粗雑な作りとは限りません。巧妙に作られたトラップは、起動を悟らせる間も与えず、刃を脇腹に食い込ませることでしょうから。
容赦ない仕掛けなのは確かだが、それでも、さほど深刻なわけではありません。キャラクターたちには、鋼の意志、技量、呪文があるのですから。協力し合い、分別を失わなければ、生きて脱することができるでしょう。おそらく、は。
ダンジョンにあふれるけだものと、よりたちの悪い存在はなんでしょう? そういうものたちをモンスターと呼称します。
もれなく怪物じみた見てくれをしているとは限りません。いくばくかの鎧を身につけた男で、角も体を包む炎も翼も皆無、という場合だってあります。ただ、その男がプレイヤー・キャラクターを殺そうとしているなら、それだけで、その他と遜色ない怪物(モンスター)となるのです。
中には武装や防具すら必要としないものたちもいます。狡猾な黒魔術師や、極悪非道な貴族は、一言二言発するだけで、プレイヤー・キャラクターを幾度も卑劣な手段で傷つけることができます。ローブと杖以外は何も身につけずに、ダンジョンを歩き回っているものには警戒しましょう。鋼の甲殻を必要としないのには理由があるのですから。
モンスターと戦うことになったなら、それはプレイヤー・キャラクターの命対モンスターの命という、対等の賭けと同義です。状況が戦いへとなだれ込むことは察知できるはずです。避け得る情勢なら、五分五分の勝算で戦うなんて絶対にすべきではありません。自分が優位に立っているのでなければ、有利な状況を作り出すべく動く方が、戦いに命を賭けるより、たぶんずっとましです。モンスターの弱点を見つけ、有利な状況を補強することにより、生き延びて戦利品を享受できるというわけです。
戦闘は多くの場合、《ハックアンドスラッシュ》《防御》《射撃》といったムーヴを引き起こすことになります。《危機打開》や《呪文詠唱》などのクラス・ムーヴも高い頻度で発生します。機先を制するのが最善の戦い方です。《ハックアンドスラッシュ》は近接戦において攻撃を行うことで引き起こされるのですが、無防備な敵は近接戦状態には置かれているとはいえないので、ムーヴは発動しません。つまり、武器や呪文を背後から叩き込み、ダイスを振らずダメージを与えることになるのです。
モンスターは数種類に分類されます。ヒューマノイドは、オーク、ゴブリンなどで、程度の差はあれ人に似ています。ビーストは動物だが、乳牛のベッシーのようにおとなしくはありません。乳牛が1フィートの長さを持つ角と酸嚢を備えている様を思い描いてください。コンストラクトは人造生命体のことです。プレイナーは、この世界の外、夢でのみ目にすることができる地から来たモンスターを指します。アンデッドは一番厄介かもしれません。死者をもう一度殺すのは、途方もなく大変なのですから。
モンスターとの戦いに身を置くことになっても、プレイヤー・キャラクターには種々の隠し球があり、それが生き延びる助けとなります。そのモンスターに関わる何かを知っている可能性があるなら、知識に頼るべく《物言う知見》が行えます。時間を費やして周囲に目を配り《事実の識別》を行っても損はありません。近辺に、見逃していたものの役立つものがあるかもしれないのですから。クラス・ムーヴと、それがどのような助けになるのかもちゃんと把握しておきましょう。思いも寄らないときに、新しい方法でムーヴが役立つかもしれません。
ダンジョンがあり、文明社会があり、そのあいだに広がるものがあります。それこそが大自然です。森林地帯とダンジョンとの境界線は、想像よりもずっと希薄です。夜、迷子になって、狼に取り囲まれた経験はありますか?
道を通っての旅行は容易いものです。たどるべき痕跡を見つけており、僅かなりとも守りとなるものがあるなら、ムーヴすら行わなくてよいでしょう。道すがら保存食を消費して、目的地へと到達するのみです。しかし、《危険に満ちた旅路》だった場合はどうでしょう。
《危険に満ちた旅路》においては、先導係、偵察係、配給係を決める必要があります。つまり、危険地帯を旅する際は、少なくとも3人いることが望ましいわけです。3人未満なら、いずれかの役割が疎かになり、厄介ごとを招き入れてしまうでしょう。
冒険者であるが故に、人々はプレイヤー・キャラクターに注目することになるでしょう。その種の注目がすべて好意的なものとは限りません。とりわけ古代の宝物をたっぷり持ちつつ疲労困憊しているときなどは、多種多様な取り巻きどもがどこからともなく姿を現すでしょう。
もちろん、そういった人々を動かすだけの材料を握り、自分が望むものを手にすべく《交渉》することもできるかもしれません。しかし、長続きする関係を構築するコツは、対象を公平に扱うことです。例えば、娘と引き替えに、アルホーロ公爵に城の贈与を強要して、領土を手にできるかもしれません。けれども、いかがわしい取り引きにまつわる評判が、他者の好意に繋がることはあまりないのです。無理強いはマインド・コントロールではないのだから、友を作りたいなら親切に振る舞いましょう。
しかしながら、魔法にはまさにマインド・コントロールを可能とするものもあります。倫理的な異論はさておき、他者を自らの意志に従わせることができるのです。当人の自由意志を片隅へとはじき飛ばすことを気にしなければ、ですが。
誰が背中を守ってくれたことがあり、誰が早々に裏切りそうなのかを、記録しておくことは価値があります。GMも同じことをするでしょうし、よくわからない人物こそが最悪の敵となるのですから。ダンジョン・ワールドにおいて遠大な構想を持つのは、プレイヤーたちだけではないのです。
決まった住所を持たない冒険者の生活に対して、他の人々は定住する傾向にあります。ピカイチの鍛冶屋がいる場所、あるいは無料で宿泊させてくれるのは街のどの宿かをおさえておくのは、実に名案です。
全ての力が物理的なものとは限らないことも覚えておきましょう。戦闘においてアルロン王を倒すことができたとしても、当然のように彼の一族、仲間、廷臣からの報復を招くことになるかもしれません。社会的身分には、魔法や腕力とは異なる、独自の力があるのです。
プレイヤー・キャラクターは冒険者であり、それ故一目置かれます。とはいえ、活動している勢力は他にもあります。プレイヤー・キャラクターがいなくとも世界は歩みを止めません。PCが下水道に跋扈するゴブリンに対処しなかったとしても、多分他の誰かがそうすることになります。あるいは、ゴブリンどもが都市を乗っ取るかもしれません。どうなるのか実際に目の当たりにしたいのなら。
動きゆく世界は、変化を待っている世界でもあります。誰を殺すのか(あるいは殺さないのか)、どこへと向かうのか、どのような取り引きを行うのか、といった選択全てが、今いる世界を変えるのです。世界を変容させるには、選択に基づいた行動が必要とされます。ムーヴを行い、財宝と探検を追い求めましょう。変化には多様な形式があり、レベルアップと新たな能力取得のためのXPもそこに含まれます。その後、そういった能力は用いられることで、形を変えて世界に解き放たれ、揺さぶることになるのです。これこそが、プレイヤー・キャラクターと、彼らが暮らす世界の両方に作用する、変化と成長の循環です。
私がGMで、ゲームを一緒に遊んでいるのは、アイザック(オマールをプレイ)、ベン(ブリアンをプレイ)、エイミー(ノーラをプレイ)、ダン(ラースをプレイ)。一行は、ゴブリンの部族が生け贄の儀式を準備しているところに、行き当たったところだ。生け贄とされるのは、街の金持ちたちのあいだでペットとして大いにもてはやされている、稀少で高価なアルビノのクロコダイルだ。
煙の麻薬で頭を朦朧とさせたゴブリンの戦士が3体、金切り声を上げながら、ファイターであるブリアンへと突撃してくる。他2体は遮蔽を取って、弓を構えつつ、ラースをしきりに指さす。邪眼を防ぐまじない仕草のようだ。他3体の集まりは部屋の端あたりの影に身を潜め、奇襲を仕掛けようとしている。高司祭とその侍祭は儀式を継続し、仰向けになったクロコダイルの腹をさすっておとなしくさせつつ、喉を切り開くべく聖なるナイフをあてがおうとしている。
私は状況描写を終えると、プレイヤーになんらかの行動を取る機会を与えることで、ゲームの会話が確実に行われるようにする。「で、どうするの?」
まずはアイザックが果敢なアクションに打って出る。「部屋の端には、十分に身を隠せる暗がりが広がっている?」「うん」と私。「どうやらゴブリンどもには、さほど多くの明かりをつけていないようだ。部屋の端の崩れた壁、瓦礫、暗闇は身を隠すにうってつけだね」「そりゃいい! 僕はこっち、つまりコソコソとした連中が向かったあたりへと進むよ。オマールは肩越しにちらりと後ろを振り返り、フードを頭に被ると、素早く影の中に身を隠す。生け贄の祭壇を照らし出すたいまつのところで、パッと影から飛び出すつもり」
私はマップを見渡して「そうだね、発見される恐れがあるのは間違いないから、《危機打開》になるだろう。慎重かつ静かに移動しているのだから、【DEX】かな」と言う。そんなわけで、彼はダイスを手に取って振る。ダイスの出目は1と2、それに彼の【DEX】2を加えても5にしかならない。「くそっ!」と彼。
何をするかは腹案あったが、私はGMのムーヴリストをチェックして間違いがないかを確かめる。案の定、暗がりの瓦礫に足を挟んでしまうという私の思いつきは、「誰かを困難な状況に置く」というムーヴに合致した。「暗がりを進んでいく時に、踏みしめた足元の瓦礫が崩れて、足が抜けなくなってしまう。さらに悪いことに、耳障りな深々とした呼吸音を耳にする。崩れてきた瓦礫が影の中にいる存在の注意を引いたみたいだ。居場所を明かして助けを呼ぶ? あるいは自力での脱出を試みる?」
「うーん、どうしよう」
「構わないよ。後回しにしよう。他のみんなはどうする?」
ダンが身を乗り出す。「暗がりに身を隠したゴブリンどもがいたよね? こちらから視認できる?」「一見したところでは無理だね。引きずりだそうとするのかな?」「いや、呪文〈スリープ〉の対象になりうるかを知りたかっただけなんだ。魔法の風を、心安らぐ夏のそよ風として部屋に行き渡らせるよ」
ダンは〈スリープ〉を唱えるべく、《呪文詠唱》のムーヴをダイス・ロールする。ダイス目の合計は6、彼のINTは+2なので、計8となる。彼は選択を行うことになる。「呪文が自分の中から静かに消えていくのを感じ取るよ。魔法の風は既に、ゴブリンの生け贄の儀式の場全体を包み込んでいる。ムーヴにはいくつか選択肢があるけど、呪文を保持するためにどれを選ぶのかな?」
ダンは選択肢を熟考する。「まだまだこの連中を眠らせる必要があるんだよなぁ。ブリアン、わたしが厄介な状況に巻き込まれる選択をしたら守ってくれる? それとも詠唱に〔継続-1〕をくらう方がいいかな?」
「無論、守ってみせるよ」とベン。
「よし、危険にさらされる選択肢にするよ」
「すばらしい」と私。「このゴブリンどもは煙の麻薬を吸っているよね? こいつらの感覚はそれにとらわれているんだ。連中は、わずかながらも魔法の風を嗅ぎ取ると、全員がブリアンではなく、君の方に殺到してくるよ。〈スリープ〉がかかるのは何体?」
ダンはダイスを振る。「たった1体だけだ。うげ」
「ゴブリン語の長い祈りの最中に、司祭が突然ドサリと床に倒れる。侍祭はすぐさま彼女を揺すり起こそうとし始めるよ。両者の注意がアルビノのクロコダイルからそれ、腹をさすってくれるものがいないのでクロコダイルは、もはやご満悦じゃなくなった。けれども、憤然としたゴブリンどもがラースのすぐ側まできてるよ」
ベンがすかさず言う。「ラースと狂乱したゴブリンどもとのあいだに割り込んで、自分を目立つ標的とすべく、怒鳴り声でゴブリンの注意を引きつける」
「《防御》かな」
「よーし、7をロールしたので、〔ホールド1〕だ」
「おー。怒気をあらわにしたゴブリン3体は、ラースに激突して危うく転倒させかけ、ダガーを荒々しく振り回す」
「させない」とベン。「〔ホールド〕を消費して、進路に足を踏み入れ、攻撃を自分に向けさせる」
「ギリギリのところでブリアンが介入して、ラースを進路から押しのけたので、ゴブリンどもは代わりに彼女に殴りかかる。5ダメージ。さてノーラ。ブリアンはいかれゴブリン3体を全て引きつけ、ラースは女祭のみを眠らせ、クロコダイルは身動きしており、オマールはどこにも見当たらない。どうする?」
「まずはゴブリンの射手の1体に撃ち込む準備をしつつ、軽くうなずくことでケントに指示を与え、影の中へと向かわせるかな。彼は狩猟の訓練を受けているので、オマールを探させて、大丈夫かを確認させよう」
私はレンジャーの《命令》ムーヴに目を通し、返答する前に、ケントの捜索の効果がどのようなものかをちゃんと把握しておく。「ふむ、ケントが進んでいくなら、しばらくたって、おそらくオマールを見つけるだろうね。ケントと一緒に暗がりに立ち入って調べるなら、オマールを見つけるための《事実の識別》ロールにボーナスがつくよ。でもまずは《狙い撃ち》するところからかな?」
「おや、ゴブリン射手は、私に不意を打たれる形なの? 単なる《射撃》かと思ってたよ」とエイミーは返答する。
今度はこちらが伝える番だ。「いや、連中はもっぱらラースに狙いを定めており、彼に向けてまさに発射しようとしているところだ。連中がそっちにに注意を向けすぎているから、不意打ちの要件は満たされると思う」
「やった! それじゃ遠慮なく、一番近い奴の腕に撃ち込むよ。弓を落とさせたいんだ。この出目に【DEX】を加えると…10だ! そいつは弓を落として、4ダメージを食らう」
私はまずゴブリンのデータを調べ、それから返事する。「うむ、それでこいつは死ぬ。そして腕を使えなくしたわけだから、弓を撃つことはなかった。けど、もう1体はラースに矢を放ち、2ダメージを与える。ラース、ブリアンに押されて敵の進路を外れた君が、安全だと思えたのも束の間に過ぎなかった。矢が飛来して足に刺さる。どう対応する? いや、ちょっと考えといて。まずはオマールがどうするかを見てみよう」
アイザックには、状況をとくと考える猶予があった。「その深々とした耳障りな呼吸音だけど、どこから聞こえるのか判別できる? 音の大きさは人間程度? それともずっと大きいの?」
「意識を耳に傾け、なんらかの情報を得ようとしているように思えるね」この行動用のムーヴがあることを、アイザックに思い出させることを期待しての言葉だ。ムーヴを行うよう伝えるだけというのはいただけない。
「ああ、そうだった! 《事実の識別》を行うよ。できる限り静かにして、これが何なのか、とにかく詳細を察知しようとしてみるね。【判断力】を加えて、結果は7だ。ふぅ。何に警戒しておくべき?」
私はメモ書きとマップに改めて目を通す。全ての情報をきちんと伝えられるようにするためだ。「えっとね、実はゴブリンじゃなかったよ。連中は、光の近く、次に君の側を通過していく。君の友人たちをに不意打ちすること意識を向けており、君には気づいていない。君が目にするのは、瓦礫の山の上に突き出すほど巨大なクロコダイルの鼻先だ。耳障りな音は、そこから発されている。どうやら、アルビノのクロコダイルには家族がいたみたいで、馬ぐらいの巨体だ。もし、自由を取り戻そうと、岩を動かし音を立ててしまったなら、ほぼ確実に君に気づくだろう。そういわけだけど、どうする?」
アイザックは思案する。「なら、たぶん音を立てないようにするための《危機打開》で、ここを抜け出そうと試みられるわけだ。あるいは…マントをバラバラに引き裂いて、「黄金の根」の毒液を全て染み込ませよう。[注入]毒だけど、自分が食われる前に、これを巨大クロコダイルに呑み込ませたなら、クロコダイルはわたしを信頼できる味方として扱うようになるはずだ。そうなれば、こいつをゴブリンどもに対して使うことができるぞ」
「よし!」冒険的な計画という印象を受けたが、無分別なだけで見込みはありそうだ。他の誰かに切り替える頃合いだろう。「オマールはマントの切れ端に毒を染み込ませている。ブリアンは、猛攻をかけてくる、麻薬で判断力の低下したゴブリン3体に囲まれている。ノーラは片目でオマールを探す。ゴブリンどもは影に身を隠し、ゴブリン射手1体が祭壇の側におり、クロコダイルは目を覚ましつつある。そしてラースは膝に矢を受けたところだ。やれやれ。ラース、矢への対応はどうする?」