序文

ダンジョン・ワールド

ダンジョン・ワールドは、空想上の冒険世界だ。魔法と神々と魔物の世界、善と悪の世界、秩序と混沌の世界だ。勇敢な英雄が黄金と名声を求めて、危険きわまる僻地に分け入ってゆく。

ダンジョン・ワールドの冒険者には数多くの姿がある。エルフ、ヒューマン、ドワーフ、ハーフリングといった諸種族はすべて英雄を輩出する。ある者は鉄の鎧に身を固めた無敵の戦獣だ。またある者は神秘に通じ、強大な魔力をあやつる。神聖なる僧侶、狡猾な盗賊、強壮なる聖戦士も、宝物と名声を追い求めているのだ。

だが、偉業をなして高潔な勇気をふるうのは簡単なことではない。野伏が味方を連れて太古の森林を踏破するときには、幾百の牙がその首を食いちぎろうと狙っている。待ち受けているのは、よだれをたらすゴブリンの大群かもしれない。あるいは、そこが灰色の魔女の巣くう呪われた森という可能性はないだろうか。または憎悪に満ちた死人の群れが、新鮮な骸を巣窟に引きずり込もうとしているのかもしれない。まさに恐怖だ。だがそこには宝物もある。忘れ去られた黄金と宝珠、そして魔法が、想像を絶する様相の世界の裂け目に落ちているのだ。それを回収するのに、たくましい英雄の一団ほどふさわしいものがあるだろうか。

君とその友だちは、かくのごとき英雄になるのだ。他の誰も行けない、行こうとしない場所に足を踏み入れよう。世界にはあやかしの者どもが待ち受けている。

立ち向かう準備はいいか。

バード

詩には、冒険者の人生はどこまでも続く道程かつ金貨と闘いの栄光に満ちていると唄われる。農村の酒場で夜ごと語られる物語に真実の一端があることを誰が否定できるだろう。農夫も貴顕も等しく感動させ、野獣をなだめ、人を狂気に駆り立てる。そんな歌の数々には必ず由来があるものだ。

そこにバードが登場する。よどみない舌とすばやい機転を備えた君のことだ。語り部にして歌い手である君。単なる吟遊詩人では、物語を語りなおすことしかできないが、本物のバードとは自身の生き様を物語とするものだ。さあ気高き雄弁家よ、靴ひもをしめよう。隠し短剣を研いで、集合の号令をかけるのだ。必ず誰かがやってくる。悪漢と肩つきあわせて闘う英雄候補たちが。君自身の偉業を書きとめるのに、君以上の適任がいるだろうか。

誰もいやしない。さあ旅立とう。

クレリック

ダンジョン・ワールドの諸邦は、神々に見捨てられた混乱の大地だ。そこは歩く死骸やありとあらゆる野獣がたむろし、神殿の祝福受けた安全な文明地を隔てる、忌まわしい空白地帯が広がっている。そこは神なき世界。ゆえに君が必要なのだ。

神の栄光を異教徒にもたらす事業は、単に君の向き不向きの問題ではない。それこそが君の天命だ。剣と鎚矛と呪文でもって改宗させる使命が君に課せられている。叡智なき荒野の真ん中に分け入って、そこに神の輝きの種子を植えるのだ。神々は自分の心の内にとどめておくのが一番いいと言う者もいる。だがそれはたわごとだ。神は剣の切っ先にこそ宿っているのだから。

誰が主人かを世界に知らしめよう。

ドルイド

焚き火のまわりに目を走らせてみよう。どういったわけで、この、都会のほこりと汗の悪臭のこびりついた輩のところへやってくることになったのだろう。ひょっとすると、優しさからかもしれない。子を見守る母熊のように彼らを守るのだろうか。彼らはもう君の群れの仲間なのだろうか。奇妙な兄弟姉妹を持ったものだ。君にくだされた霊感がどうあれ、君の鋭い感覚と鋭利きわまる爪がなければ、彼らの失敗は明白だ。

君は聖域に属する者だ。土より生まれ、精霊の刻印をその肌に宿している。あるいは君にもそれ以前の人生があったかもしれない。彼らのような都市居住者だったかもしれない。だが今はもうそうではない。君は決まった形を捨て去ったのだ。盟友たちが石彫りの神々に祈る声、銀製の殻を磨く音に耳をかたむけろ。彼らは君が捨ててきた退嬰の町で栄光を取り戻せると語るのだ。

彼らの神々は幼子に過ぎず、その鋼はいつわりの護りでしかない。君は古き教えを生き、大地そのものの皮をまとっている。宝物の分け前はもらうだろうが、君が彼らと同じ道を歩き続けるのかどうかは、時がたてばわかるだろう。

ファイター

感謝はされない仕事だ。鎧と剣の腕前に頼って危機に飛び込む日々の暮らしは。バックスバーグの酒場で、仲間に向けられた冷やかしに対し短刀を向けたところで、黄金の角笛が吹き鳴らされることはない。悲鳴を上げる彼らを狂気の闘技場から引きずり出したところで、天使の一団が歌ってくれるわけでは、決してない。

仲間に気を取られるな。

君がそうするのは、胆力と栄光のためだ。戦いの叫び声と、そこで流される熱い、熱のこもった血のためだ。君は鉄でできた獣だ。友人たちも、確かに鍛えられた鋼の武器をたずさえてはいるだろう。しかし、ファイターである君は鋼そのものなのだ。旅の仲間たちが荒野に起こした焚き火のまわりで傷の痛みに苦しむとき、君だけはいくさ傷を誇りに思うのだ。

君は鉄壁。ありとあらゆる危難よ、押し寄せよ。最後に立っているのは君なのだ。

パラディン

地獄が待ち受けている。炎や氷、ダンジョン・ワールドの呪われた輩の罪にみあった永劫の責め苦が。陰惨な拷問の陥穽と救済とのあいだに立つのが君だ。君こそが聖なる者、鎧まとう兵器、善と光の聖堂騎士。クレリックは夜ごと天上にまします神々に祈りを捧げる。ファイターは“善”の名のもとに鋭い剣を振るうだろう。だが、善のなんたるかを知る者は君だ。君だけなのだ。

神々の両目にして両手、すみやかな神罰の一撃が君だ。君の力は大義と美徳、正義と預言の力なのだ。純粋な意志こそ、君の仲間が持たぬもの。

ゆえに愚者を導くのだ、パラディンよ。聖なる義をかかげ、このろくでもない世界に救いをもたらすのだ。

敗者に弁明の余地はない。

レンジャー

旅を共にするこの街生まれどもときたら。狼の遠吠えを聞いたことはあるのか。東方の荒涼たる砂漠の風のうなりを感じたことは。君のように弓と短刀のみで獲物を狩ったことは。まったくないときた。だから君が必要なのだ。

案内役。狩人。原野に生きるもの。君はこれらすべてであり、そしてそれ以上の存在だ。原野での君の暮らしはこれまでは孤独なものだったが、何かもっと偉大なるものの呼び声が、望むなら運命とでも呼ぶべきものが、君の縄張りにあの輩を投げ込んだのだ。彼らは勇敢かもしれない。力強く強壮かもしれない。しかし君だけが町と町のあいだに広がる空間の秘密を知っているのだ。

君なしでは、彼らは迷ってしまうだろう。血と闇を踏み越える道を拓け。馳せる者よ。

シーフ

焚き火に車座で語る彼らの声を聞いたか。あれこれの闘いや、神々がいかに仲良し一座にほほえんでいるかを自慢しているその声を。君は金貨を数えてひっそり笑う。これこそ何よりのスリル。君だけがダンジョン・ワールドの秘密、不潔きわまる儲けの秘訣を知っているのだ。

そうだ。君がこっそり抜け出すたびに、彼らは文句をたれるが、もし君がいなければ、一人残らず空飛ぶ首狩り刃にまっぷたつにされたり、太古の毒針罠にあっさり殺されてしまうだろう。だから勝手にぶつぶつ言わせておけばいい。この洞窟探検の片がついたら、かの英雄たちの墓をたててやろう。

まずは城からだ。黄金をぎっしり詰め込もう。むろん、盗み取った金貨で。

ウィザード

ダンジョン・ワールドにはルールがある。人の作った法律や、どこかのけちな暴君の命令のことじゃない。もっと大きく、もっと優れたルールだ。君が何かを落としたら、それは落ちる。君は何もないところから何かを作ることはできない。死人は死んだままだ。さもあらん。

ああ、だがこれは長くて暗い夜を心安らかに過ごすための方便だ。

君はとても長い時間を、魔道書の研究に費やしてきた。狂気の淵まで追いやるような実験を行い、魂そのものを危険にさらす召喚術をかけてきた。それはなんのためだ。力のためだ。それ以外に何があるというのだ。王や国の権力のことじゃない。体内の血を沸騰させてしまえる力だ。天空の稲妻を招来し、大地を揺り動かすための力だ。世界が後生大事に守っているルールを振り払うための力だ。

あいつらには白眼視させておけ。妖術師だの悪魔崇拝者だのと呼ばせておけ。両目から火の玉を放てる者はひとりもいないのだから。

そう、そんなやつはいないのだ。

なぜ?

 なぜダンジョン・ワールドを遊ぶのか。

 第一に、登場人物が心躍る何ごとかをなすのを見るためだ。未踏の地を探検し、不死なるものを殺し、世界の底の底から天空の頂の果てに至るまで旅するのを見るためだ。この世を揺るがす事件や大いなる悲劇に巻き込まれるのを見るためだ。

 第二に、共に奮闘するのを見るためだ。互いの違いを乗り越えて団結し、共通の敵に立ち向かったり、宝物をめぐって言い争ったり、戦闘計画を相談したり、苦労の末勝ち取った勝利の祝宴に参加したりするのを見るためだ。

 第三に、世界には探検する場所がまだまだ多いからだ。盗掘されていない墳墓や竜の宝物庫が僻地に点在し、指先巧みで武勇に優れた冒険者たちに発見されるのを待っている。そうした未踏の世界には独自のしくみがある。それが何なのか、そして登場人物の人生をどのように変えていくのかを見るために、ダンジョン・ワールドを遊ぶのだ。

本書の使い方

本書はダンジョン・ワールドの遊び方を教えてくれます。もし、GMをする予定なら、全体に目を通す必要があります。もっとも、『モンスター』の章の半ばまでをざっと読みして、『さらなる探求』の章は後回しにしてもよいでしょう。あと、プレイ・エイドを印刷しておいてください。肝心なところを理解する助けとなるはずです。プレイヤーの場合は、『ゲームのプレイ』以後を読む必要はありません。ダンジョン・ワールドにおけるルールの多くは、ゲーム中に使用するキャラクター・シートそのものに記載されているからです。ゲームプレイ中に、特定のルールを参照すべく何度かテキストを読み返すことになるでしょうが、そういうことが起きるのはまれです。

準備

 ダンジョン・ワールドを遊ぶには、あなたのほかに2人から5人の友だちが必要です。あなたもいれて4人から6人がベストというわけです。そのうちのひとりがゲーム・マスター(以下GM)になります。残りは全員、プレイヤーとなってゲーム中の登場人物の役をまかされます。こうした登場人物のことをプレイヤー・キャラクター、またはPCと呼びます。ゲーム中、プレイヤーはキャラクターのセリフや考えなどを発言します。GMはPC以外の世界すべてを描写します。

 単発のセッションを遊んでもいいし、何回もセッションを重ねてキャンペーンにしてもいいでしょう。もしキャンペーンを遊ぶつもりなら、日程を調整してください。週に1回、夜の時間をあけておくといいかもしれません。それぞれのセッションは普通、数時間で終わるので、1回目のセッションは今からでもすぐに始められるでしょう。

 何枚か資料を印刷しておく必要があります。新たにゲームを始める前に、少なくとも次のものを入手するか、印刷しておきましょう。

  • 基本ムーヴと特殊ムーヴのコピー数枚
    • クラス・シートのコピーを1枚ずつ
      • クレリックとウィザードの呪文シートを1枚ずつ
        • 冒険シートとGMムーヴを1枚ずつ
          • ペンと鉛筆、地図やメモを書く用紙、インデックスカード(メモ帳)でもよい

             卓につく全員は筆記用具と六面体ダイスを何個か用意してください。六面体ダイスは少なくとも2個いりますが、プレイヤー各人が2個ずつ持っておくといいでしょう。

             また、特殊なダイスも何個か必要になります。四面体、八面体、十面体、十二面体のダイスです。それぞれ1個ずつで事足りますが、たくさんあればいちいち受け渡しをしなくて済み便利です。

            ダンジョン・ワールドをどう遊ぶ?

             ダンジョン・ワールドを遊ぶということは、あなたのキャラクターが黄金と名声を求めて旅する中で、危険で刺激的なモンスター、奇怪な廃墟、変わった人々と遭遇したときに、いったい何が起こるのかを発見することに尽きます。それをなすのはプレイヤーがGMをまじえて交わす会話です。GMはプレイヤーに周囲の世界から見聞きしたことを伝え、プレイヤーは自分のキャラクターが何を考え、感じ、何をしようとするのかを伝えます。ときには、こうした描写がムーヴを誘発することもあるでしょう。そうなったら、いったん会話を止めて、「ダイスを振って、何が起こったのかを決めよう」とGMが口にすることになります。つかの間、みんなが身を乗り出してダイスが音をたてて転がり止まる様を見守ります。出た目に関係なく、そこには必ず緊張と興奮が生まれるでしょう。

             ダンジョン・ワールドを遊ぶうちに、みなさんのキャラクターは世界について学び、モンスターを倒し、富を集めながら、冒険によって変化し、経験を積んでいきます。みなさんのキャラクターたちがおたがいのことをどう思っており、その倫理観がどこに行きつくかを掘り下げていくことになるでしょう。充分な経験を積んだらレベルが上昇し、より強くなって、より多くの選択肢を探検の中でとることができるようになります。

             みなさんは同じ仲間うちでセッションを重ね、長期間にわたる冒険を遊びながら、自らのキャラクターがどのように変わり、成長していくかを見守ることができます。また、単発のセッションで完結するゲームを楽しむのもいいでしょう。長いキャンペーンでも単発セッションでも、ダンジョン・ワールドのルールが、幻想の冒険世界を創造する手助けをしてくれるのですから。さあ、旅立ち、探検をはじめる時が来ました。