さらなる探求

ダンジョン・ワールドが描くのは、はっきりと限定されたファンタジー冒険ものです。エルフとドワーフ、英雄と悪漢がおり、プレイヤー・キャラクターたちは危険な世界で富と栄光を求めて奮闘する、といった類の。ひょっとすると、あなたの抱く構想は趣が異なっているかもしれません。あなたのダンジョン・ワールドは、未開の人食い人種が住まい、傲慢な霊能者たちの支配する、荒涼とした砂漠の惑星という設定かもしれなませんから。あるいは、あなたのプレイしたがっているゲームでは、ヒューマンのみがプレイ可能な種族であり、ドワーフとノームほどに相異点のある氏族や一族に属している、なんてこともあるでしょう。少し労力を注げば、こういったことは全て可能です(それどころか、奨励されています)。この章では、本書に記されたダンジョン・ワールドを、あなたのダンジョン・ワールドにする方法が説明されます。

ムーヴの作成

ダンジョン・ワールドをハックする旅の開始地点に最も適しているのは、ムーヴです。多くのフロント・危険・その他のあなたのゲームの要素は、カスタム・ムーヴに組み込まれているはずなので、着手するにはうってつけというわけです。あなたは特定の脅威の影響を反映したムーヴを作ろうとするかもしれません(「罪深き広間に単身で入り込んだなら……」)。設定に関してとりわけ重要な事柄をカバーするムーヴを作ることもあり得ます(「闇の水域を泳いだなら……」)。経験を積むに従い、クラスを拡張するムーヴを作成したり、完全に独自のクラスを作り上げることになるでしょう。

手始め

ムーヴの取っ掛かりはどこにあるのでしょう? きっかけ(トリガー)からムーヴに取り組むのはありです。アクションの中には、ムーヴにするのがしっくりくるものもあるでしょう。それこそが、もっとも一般的なムーヴの糸口です。アクションが発生するのを目の当たりにして、既存のムーヴと大きく異なると感じたなら、独自のルールが必要というわけですね。

エフェクトから取り組んでもよいでしょう。クラスムーヴにはとりわけ有効です。呪文の詠唱がウィザードの所業なのは明らかだとしても、そのエフェクトはどんなきっかけから生まれるのでしょう?

滅多にないことですが、ルール面から取り組むことだってできます。時には、すごいことが思い浮かぶかもしれません。例えば、絶えず能力を変動させることに喜びを覚える従順なデーモンを思いついたなら、そこから進めてみましょう。ルール面に終始してしまうアイデアは慎重に扱ってください。ムーヴは必ず、物語(フィクション)に始まり、物語(フィクション)に終わるものですから、ムーヴにおけるルール面のアイデアはさほど重要ではないのです。

また、いつでも他のゲームからムーヴを引っ張ってくることができます。ダンジョン・ワールドはムーヴを使用する少数のゲームのうちの1つ(訳注:10年たった現在、かなりの数になりました)ですから、他から着想を得ることもあるでしょう。たいていの場合、既存のムーヴをダンジョン・ワールド用に調整することは、さほど難しくありません。

ムーヴの種類

ムーヴの果たす役割によって、作成しているムーヴの種類が決まります。

GMがダンジョン・ワールドに追加した環境や独自の特徴に対処するムーヴは、特殊ムーヴとなります。このムーヴは通常、GMの領域であり、世界のある側面を際立たせる部分です。ムーヴは必ずプレイヤーによって引き起こされるので、これに類するムーヴは書き出すか印刷しておいて、全員に見える場所に置いておくべきでしょう。プレイヤー・キャラクターたちには、思いもよらない事柄を扱う場合を除いては。

特別な能力やパワー、もしくは何らかのプレイヤー・キャラクターの行動を反映するムーヴは、たいていクラス・ムーヴです。そのムーヴが明らかに特定のクラスに関係しているなら、該当クラスに追加してください。そのムーヴが複数のクラスで利用可能なコンセプトに紐付けられている(例:死の黒き門の向こう側を見たことのあるもののみが利用可能など)なら、そういったムーヴのためのコンペンディアム・クラスを作成してもよいでしょう。コンペンディアム・クラスとは、小型クラスのようなもので、物語のテーマに沿ったムーヴをまとめたものです。これについては、後ほど詳しく扱います。

ムーヴがプレイヤー・キャラクターの何らかの行動を処理するものでありながら、特定のテーマやクラスと関連しないものなら、たぶん基本または特殊ムーヴとなります。ひっきりなしに発生するなら基本ムーヴで、滅多に登場しないなら特殊ムーヴです。

モンスターに対するプレイヤー・キャラクターの反応によって起こるムーヴ(例:病気の影響、エアーエレメンタルから吐きかけられる暴風をものともせず前進するなど)は、そのモンスターと関連するプレイヤーのムーヴとなります。モンスターと関係のあるプレイヤー側のムーヴはかなり珍しいものです。プレイヤー・キャラクターがモンスターと渡り合う手段の大部分は、基本とクラス・ムーヴによりカバーされているからです。

プレイヤー・キャラクターに対してモンスターの行うムーヴは、そもそもプレイヤー側のムーヴではありません。それらはモンスター・ムーヴであり、モンスターの行動を宣言する簡素な代物です。あらゆるモンスターのムーヴをプレイヤー側のムーヴとして作成しようとすることは、GMの創造性を大いに阻害する結果を生むでしょう。

世界ムーヴ

ダンジョン・ワールドは風変わりなこと満ちあふれていますよね? こういった奇想天外な事柄の中には、引き起こされるのことをきっちり反映するカスタム・ムーヴに値するもの、あるいはカスタム・ムーヴが必要なものがあると、気づくかもしれません。クリス・ベネット作の次のムーヴを見てきましょう。

下水道の昇降口を開けるなら、ダイス・ロール+【STR】。*10+なら2つ選択。7-9なら1つ選ぶこと。

  • 上の下水道から降ってきた、糞尿と腐った動物の内臓をかぶらずに済む。
    • ゼラチンキューブに攻撃されずに済む。
      • 商人の娘がとらわれているところへと続く、秘密の裏口を発見する。

        特定の場所と時とに強く結びついているため、このムーヴは説得力のあるものとなっています。このムーヴはジェイソン・モーニングスターの『ダンジョン・ワールド』のゲームにおいて、書かれました。プレイヤー・キャラクターたちが有力商人の娘を探すため、とても恐ろしい下水道に足を踏み入れたところで必要とされるからです。選択肢のうち2つは、まさにその状況と、極めて直接的なつながりを持っています。

        どうして、《危機打開》を用いるのではなく、このムーヴを書いたのでしょう? 毎回書いたりはしません。圧力のかかった下水道の昇降口を開けるのは、間違いなく危険なので、《危機打開》を使ってもよいのです。このムーヴには、前もって選択肢をお膳立てできるという利点があります。これは実に強力なテクニックです。《危機打開》を引き起こす可能性の高い特定の状況がある場合、困難な選択を表現するカスタム・ムーヴを書くことで、その時に考えを巡らせる手間を省くことができるのですから。

        こういったムーヴの他の利点は、ある物事が重要であることを知らせてくれるところにあります。「目前の危機を顧みない行動をとるなら」ではなく「下水道の昇降口を開けるなら」をきっかけとすることで、このムーヴは、ここの下水道は常に危険だと注意を喚起してくれるわけです。

        クラス・ムーヴ

        各クラスには、10レベルになるまで取得できるムーヴが十分に備わっていますが、追加しても差し支えありません。クラスにムーヴを追加することで、GMのダンジョン・ワールドについての見解を具体的に示せます。例えば次のようにです。

        1つの部屋を自らの神に捧げると宣言するなら、入り口すべてにしるしをつけた上で、ダイス・ロール+【WIS】。*10+なら、その部屋では平和が保たれる。その中にいるものに物理的な危害を引き起こす行動はとれなくなる。*7-9なら、その部屋では平和が保たれるものの、神の力を示したことが注目を集めてしまう。術者は自由に平和の保たれた状態を解除できる。

        このムーヴは、(通常PCたちにはなかなか手に入らない)平穏を求めることもできるという、ダンジョン・ワールドの少し趣の異なる側面を提示しています。あらゆるダンジョン・ワールドのゲームには適さないでしょうが、今回のダンジョン・ワールドの方向性を、プレイヤー・キャラクターに反映させることで示すうまいやり方と言えるでしょう。

        ムーヴを追加するときは、どのクラスに付属させるのかを注意深く吟味しましょう。他のクラスの専門領域を侵すようなクラス・ムーヴの付与は避けてください。もしもシーフがウィザードと全く同じに《呪文詠唱》できるようになれば、ウィザードは役割を奪われたと感じるかもしれません。《マルチクラス》ムーヴを本来より1レベル低いものとして扱い、各クラスの得意分野をある程度保護しているのは、そういった理由からです。

        既存のムーヴと同じ恩恵をもたらすムーヴの扱いには注意しましょう。たとえ、トリガーが異なるとしてもです。特に、ダメージを追加するムーヴは、興味深いトリガーを入念に作り上げた場合を除いて、たいていは避けるべきです。同じことはアーマーを追加するムーヴにも当てはまります。現在のクラスは、ダンジョン・ワールドの全体的な危険度を反映して、ダメージとアーマーが上昇するようにされています。これを増加されるなら、起こりうる危険を無価値なものとしてしまうかもしれません。

        新たなクラス

        ひとたびダンジョン・ワールドの新たなムーヴの作成とクラスのカスタマイズに足を踏み入れたなら、あることに気付くでしょう。そう、クラスとはテーマに沿ったムーヴの集まりに過ぎず、それらが組み合わさることで、クラスに独自の雰囲気を与える能力と特徴を生み出しているのだと。やる気があるなら、次の一歩は新規クラスの作成へと進むのが自然です。

        最初に熟慮すべきは、そのクラスと既存のクラスとの関係性です。キャラクターはひとりっきりではありません。だから、このクラスが他と違っている理由を真剣に考えるべきなのです。

        新規クラスを作成する一歩目として最適なのは、着想元にしたい架空キャラクターについて思いを巡らせることです。その架空のキャラクターのなし得ることを、そっくりそのまま模倣するのはいただけないものの(だって、ダンジョン・ワールドとは別世界なのですから)、そのキャラクターを素敵なものにしている部分は参考にしましょう。

        この本に収録されているクラスの着想元はかなりはっきりしていますし、なんなら欄外のメモでネタ元が明かされているものもあります。着想元に完全に忠実とは限らないことには心を留めておきましょう。『ディスクワールド』の魔術師の影響を受けてウィザードは多少もったいぶったスタイルではあるものの、その力量は卓越しており、魔法の行使についてはヴァンスの『終末期の赤い地球』の魔術師の方に近い形です。着想元はスタイルのひとつであり、あるキャラクターがネタ元の本で行えたことを再現しようとするのにはそぐわないのです。

        はっきりしたアイデアを念頭におきつつ、基本的な段階を踏んでいきましょう。すなわち、個々のムーヴの記述に関係してこない、HP、縁故、外見、装備品、属性、種族などからです。

        クラスのHPは、基礎値+耐久力からなります。HPの基礎値はほぼ必ず、4、6、8、10のいずれかです。HPをファイターやパラディンよりも高くする場合は、注意しなければ、そういったキャラクターたちから活躍の機会を奪うことになりかねません。ウィザードよりも低いHPにするのは、自殺への道筋を作るも同じです。基礎HP4点は、そのクラスを意図的に脆弱にすることで、剣が持ち出されたなら他者に助けを求めるようにしています。基礎HP6点は、喜んで戦うことこそないものの、少なくとも攻撃を引き受けることのできるクラス用です。基礎HP8点なら、幾度かの攻撃を引き受け、ちょっとは戦闘に携わることができます。一方、基礎HP10点は熟練の戦士や、戦闘を全く恐れないクラス用です。

        ダメージは利用可能なダイス(d4、d6、d8、d10)から選択されます。本書にて提供されているクラスはすべて、固定ボーナスなしのダイス1個を用いていますが、他のオプション(例えば2d4、1d6+2など)を試してみるのもありでしょう。高いHPとダメージとは手を取り合う傾向にあるものの、新規クラスを鉄壁の不戦主義者や、脆くも剣呑なガラスの大砲にしてもかまいません。

        属性は、クラスの開始時のものの見方を示します。ほとんどのクラスは「中立」を選択肢に含んでいるので、理念に縛られて己を優先できないのはこの上なく特化されたクラスに限られます。適切な属性ムーヴは、ある程度の頻度で発生して、かつプレイヤーを特定タイプのアクション(そうでなければ考慮されない可能性のある行い)へと導いてくれます。「お宝を獲得したなら……」のような通常のプレイの過程で発生する属性ムーヴでは、キャラクターの理想をさほど表現できません。必要条件を加えましょう。たぶん「虚言と策略によってお宝を獲得したなら……」などで、理念の要素を追加するのです。こうすることで、属性はプレイヤー・キャラクターにまつわることを主張する(この場合だと、疑っていない相手をペテンにかけると経験点を得る)ようになり、どのようにプレイすべきなのかを考えるようプレイヤーに促してくれます。属性は、その世界におけるクラスの実像も教えてくれます。パラディンが善と秩序の規範に沿った行いをするだろうことは周知の事実、ということです。

        縁故はクラスの見解が伝わってくる部分です。デザイナーであるあなたはここで、キャラクター作成時のプレイヤーと明確な対話を行うことになります。クラスが著しく社交的だったり非社交的だったりしない限り、縁故を4つ記述してください。他者と特に親密な場合、縁故を1つ加えましょう。俗世間から距離を置いているなら、縁故を1つ減らしましょう。道徳的/道義的なスタンスを押しつける縁故は避けねばなりませんが、そのクラスが仲間たちとどのような交流をもつのかは十分に考えを巡らせてください。シーフはものを盗むも、トラップからパーティーを守ります。ファイターは仲間を守り、危害を加えてくる可能性のあるモンスターを殺します。ウィザードは隠された知識を理解し、それを分かち合ったり独り占めにしたりします。このルールを使って、開始時点での新たな縁故を書いておくこともできますが、開始時の縁故に固有名詞を含めることは避けてください。

        外見はおおむね、想像力に委ねられています。この機会は、物語の着想元について考えを巡らすのにとても適しています。彼らはどんな見てくれだったのでしょう? また、どのように外見上の独自性をうちだしているのでしょう? 衣服についての選択を少なくとも1つ設けることは、どんな服を買うかプレイヤーに思案させる手間を省き、スタイルを固める一助となります。

        クラスが明らかに戦闘への熟練を欠くのでなければ、装備品の選択には、必ず武器の選択肢と防具の選択肢を最低でも1つずつ含めるべきです。ダンジョン用保存食もほぼ必須です。食料をもたない初期のプレイヤー・キャラクターが、危険な領域の境界を踏み越えるなんて、ばかげてますから。

        コンペンディアム・クラス

        コンペンディアム・クラスは、特定の条件を満たした高レベルのキャラクターのみが利用できます。コンペンディアム・クラスと呼ばれるのは、『ダンジョン・ワールド・ベーシック』の抄録(Compendiums)が初出だったからです。コンペンディアム・クラスは、あるクラスに他のクラスを複数重ねるというコンセプトを実現する方法です。

        コンペンディアム・クラスは基本構造に、特定の経験をしたプレイヤー・キャラクターのみが獲得できる初期ムーヴを含んでいます。こんな感じです。

        神やその化身の肉体を間近にしたなら、次にレベルアップするとき、クラスのムーヴを選ぶ代わりに、このムーヴを取得できる。

        《神との絆》

        新たな縁故を書く際、他のプレイヤー・キャラクターの名前の代わりに、接触したことのある神の名前を記入することができる。神への縁故を現在の状況に生かそうとするときはいつでも、その縁故を消すことで、神の恩寵を求めることができる。恩寵はGMが描写して、明白かつ疑う余地のない形をとる。そのセッション終了時、消した縁故を、神もしくはプレイヤー・キャラクターとの新しい縁故に置き換えることができる。

        このムーヴはプレイヤー・キャラクターが特定の物事を成し遂げた後でのみ利用可能になり、その場合でも次のレベルアップ時にのみ取得できるということに注意してください。コンペンディアム・クラスは、プレイヤー・キャラクターの成し遂げたことに基づいて運用するのが一番よいでしょう。能力値必要条件や、プレイヤー・キャラクターの行動に関係無く起こることをベースにするのはいただけません。5レベルになるだけで誰でも利用可能なコンペンディアム・クラスなんていうものは、あまり賛同できません。死の黒き門に行って生還した場合にのみ利用できるコンペンディアム・クラスの方が、ずっと面白いからです。

        コンペンディアム・クラスには通常2〜3のムーヴが付属しており、それらは初期ムーヴを取得した場合のみ取ることができます。扱いは通常のクラス・ムーヴと同じで、取得条件が「そのコンペンディアム・クラスの初期ムーヴを獲得していなければならない」となっているだけです。

        コンペンディアム・クラスは、通常のクラスに影響を与えすぎない程度のコンセプトが理想的です。クラスがどのような姿なのか思いつかない、どれぐらいのHPなのかわからない、そのクラスが既存のクラスとかぶっているのか判断つかない、といった場合は、おそらくコンペンディアム・クラスにするのが望ましいでしょう。

        冒険ムーヴ

        冒険ムーヴは、進行中の冒険を直接取り扱います。アクションを進行させたり、報酬を変更したり、ある冒険を別の冒険へと移行させたりするものです。

        短いゲーム(コンベンションやゲームデイなど)を運用するなら、事前の経験を少しばかり挿入したくなるかもしれません。次にあげる「これまでの冒険」をカバーするムーヴにより、短いゲームを話の途中から始めることが可能となります。

        屈強なファイター山賊なんて取るに足らない。さらに、敵に負わされた、刀傷、すり傷、打撲傷などでは物足りないというなら……冒険仲間たちと共に地下に閉じこめられた、でどうだ。街に帰って勝ち取った報奨金を使いたい、望みはそれだけなのに。戦士よ、そうは問屋が卸さなかったんだ。剣を研いでおこう! 安全を確保するまでは、仲間が君の守りを必要とするのは間違いない。まあ、前回と同じくもう一度、法律違反を犯すってだけさ。仲間たちは、君に1つ2つ借りを作っているに違いない。保証しよう。

        周りを見渡して、ダイス・ロール+【CHA】。*10+なら、パーティーのメンバーを2名選ぶ。*7−9なら、選ぶのは1名のみ。*6-なら、まわりは恩知らずばかりだ。

        必要な時に、先に選んだパーティーのメンバーから、貸しを返してもらうことができる。対象は自らのアクションを1回だけ、君が選んだものに変更しなければならない。対象が直接ダメージを受けるようなアクションを取らせたり、対象がすでに所有しているマジックアイテムを譲らせたり、直接危害を加えさせたりすることはできない。これを用いて、相手を同意させたり、保存食を余分に渡してもらったり、戦利品のくじ引き時の枠を譲ってもらったりしよう。影響力を行使するのは心地よいものだ。

        このムーヴで最も肝心なのは、ダイス・ロールやその効果ではなく、情報と雰囲気です。それにより手早い冒険のための舞台が組み上げられ、読んだプレイヤーには動き始めるポイントがわかるのですから。このダイス・ロールとその結果は興味深いものの、ゲームの流れをさほど変えるわけではありません。プレイブックに添えて、各プレイヤーに1つずつこのセットを手渡すのは、コンベンションのゲームを運用するにうってつけの方法です。

        また、《セッション終了》のムーヴを改造して、展開している冒険を反映させることもできます。これを行うなら、プレイヤーに新しい《セッション終了》ムーヴを、事前提示しておくことが鍵となります。目的はXP獲得方法を秘密にしておくことではなく、XP報酬をこの冒険に直結させることなのですから。

        セッション終了時、通常のセッション終了の質問の代わりに、次を用いること:

        • 鱗ある神のカルトについてなにがしを知った?
          • セコール村のとらわれた村人を救出したか、村を守る手伝いをした?
            • 鱗ある神のカルトの重要な活動員を倒した?

              ムーヴの構造

              ムーヴは必ず、類似した構造に従った形を取ります。ムーヴの最も基本パーツは、トリガー(「……のとき」)とエフェクト(「その結果……」)です。すべてのムーヴはこの基本フォーマットに従っています。

              トリガー

              トリガーは多くの場合、プレイヤー・キャラクターが取りかかった物語内でのアクションですが、キャラクター作成の一要素となることもありますし、セッションの開始/終了もトリガーになり得ます。トリガーが厳密な時間の単位を扱わないよう心がけてください。また、「ドラゴンの近辺でラウンドを開始したなら」といった出だしのムーヴを書かないようにしてください。ラウンドは存在しないのですから(そして近辺というのも最適な表現とは言えないでしょう。「火を吐く呪わしきドラゴンに対峙する」という物語から外れてしまうように思われるからです)。《呪文の準備》が「1時間かけて呪文書に没頭するなら」になっていないのは、もっともな理由があるのです。ダンジョン・ワールドにおける時間はあまりカッチリしておらず、情勢によってペースの決まる映画のそれに似ています。卓上の具体的な時間単位(ラウンド)、あるいは物語内の具体的な単位(秒、分、日)、のどちらのにも依存してはならないのです。

              適用範囲の広いタイプのトリガーをいくつかあげてみましょう:

              • プレイヤー・キャラクターがアクションを行うなら。例:《事実の識別》《秘術の技芸(バード)》、《命令(レンジャー)》
                • プレイヤー・キャラクターが特定の状況でアクションを行うなら。例:《ハックアンドスラッシュ》、《戦場での洞察(ファイター)》、《バックスタブ(シーフ)》
                  • プレイヤー・キャラクターのアクションではなく、指示された状況になれば。例:《傭人への命令》《セッション終了》
                    • プレイヤー・キャラクターがものを用いたなら。例:マジックアイテム、《先祖伝来の武器(ファイター)》
                      • この先ずっと適用されるもの。例:《静謐(クレリック)》、《毒使い(シーフ)》

                        エフェクト

                        ムーヴのエフェクトは、考えつく限りのありとあらゆる形を取ることができます。空想と同じく制限などないのです。ダイス・ロール、+1ボーナス、能力値の交換などに拘泥しないでください。すべてのムーヴは物語から生じるのですから、「君を友人として扱ってくれる」のようなエフェクトは、〔次回+1〕と全く同等、もしかするとそれ以上に、強力で有用なのです。

                        適用範囲の広いタイプのエフェクトをいくつかあげてみましょう。ムーヴによっては、複数のエフェクトを用いるものもあるかもしれません:

                        • ダイス・ロール。例:《危機打開》、《呪文詠唱(ウィザード)》、《狙い撃ち(レンジャー)》
                          • 能力の置き換え。例:《ドワーフ(ファイター)》
                            • ダメージ無効化。例:《人の最良の友(レンジャー)》
                              • 次回か継続の、ボーナスかペナルティを与える。例:《窮鼠(シーフ)》、《神罰(パラディン)》
                                • ダメージを与える/治す。例:《射撃》、《バックスタブ(シーフ)》、《秘術の技芸(バード)》
                                  • 選択肢から選ぶ。例:《事実の識別》、《儀式魔法(ウィザード)》
                                    • 保留&消費。例:〈ドミネイト(ウィザードの呪文)〉、《トラップの専門家(シーフ)》
                                      • 質問&答え。例:《感じがよく率直(バード)》、《物言う知見》
                                        • 状況を変える。例:《名声(バード)》
                                          • 経験値を得る。例:《セッション終了》
                                            • より詳しい情報を求める。例:《交渉》、《儀式魔法(ウィザード)》
                                              • 選択肢の追加。例:《狙い撃ち(レンジャー)》

                                                基本部分の変更

                                                ムーヴは、このゲームの基本構造すら変えてしまうかもしれません。次の、ダメージ・ダイスを使用しないムーヴを考察してみましょう:

                                                ダメージを与えるとき、ダイスを振る代わりに、各ダイスに指定された数値を代入しよう。d4は2、d6は3、d8は4、d10は5、d12は6となる。

                                                このようなムーヴは、ゲームの基本的な特徴を変更します。根本的な部分に手を突っ込むムーヴには細心の注意を払ってください。ムーヴはGMの心得あるいは方針と矛盾してはいけませんし、基本の「行動することで結果を得る」というルールを破るべきでもありません。

                                                ゲームを構成するパーツの中には、変更が著しく簡単なものもあります。レベルアップのためのXP量はデザイナー側の見解を反映しているものの、レベル上昇の頻度を増減することは容易く行えます。同様に、プレイヤー・キャラクターにXPが与えられる行為の類も、労せず変えられます。あなたの卓が、探検、モンスターとの戦い、宝物の発見を目的としない場合、その違いを反映する形に《セッション終了》ムーヴを変更しましょう。ゲームを開始する前にそのことを、プレイヤーたちに話しておくことを忘れないでください。

                                                他の基本部分で時たま質問を受けるのは、例えば、ドラゴンとの戦いを大変なものにする方法、でしょうか。この場合の最善の答えは「ドラゴンは物語の中ではずっと格上の存在だから、ドラゴンと戦うのは骨が折れる」です。通常の刀剣でドラゴンに突きかかるだけでは、《ハックアンドスラッシュ》になりません。なぜなら標準的な刀剣はドラゴンを傷つけられないからです。ただし、それで不十分なら、ヴィンセント・ベイカーが元々『アポカリプス・ワールド』で考案した次のムーヴを検討してみましょう(ダンジョン・ワールドのルールに合わせて、少し言い換えられてます)。

                                                プレイヤーがムーヴを行い、GMがそれをとりわけ困難だと判断したなら、そのダイス・ロースに-1されてしまう。プレイヤーのキャラクターがムーヴを行い、GMがそれをどう考えても無茶だと判断したなら、そのダイス・ロールに-2されてしまう。

                                                このムーヴの問題は、ムーヴが具体的な事柄を反映していない点にあります。それどころか、このムーヴはGMの明確な枠組みのない判断を求めてくるのです。この手のカスタム・ムーヴを書いてしまったことに気づいたなら、自分が実際に形にしたいのはどのような困難なのかを熟慮して、そのことを反映させたカスタム・ムーヴに書き直してください。とはいっても、あなたが必要だと思うなら、これも有効なカスタム・ムーヴには違いありません。

                                                ムーヴの進化

                                                時間とともにあるムーヴが進化していく様を見ていきましょう。《ハックアンドスラッシュ》はダンジョン・ワールド最初期のムーヴのひとつで、もともとはトニー・ドウラー氏が執筆したものでした。最初のバージョンはこんな具合だったのです(このバージョンは、書式を設定し直し、文法部分を編集した以外手を着けていません)。

                                                戦闘に加わり、敵に攻撃するなら、攻撃をしかけている敵にダメージを与え、その相手からのダメージを受ける。その上で、ダイス・ロール+【STR】。*10+なら、次から2つ選択。*7-9なら、1つ選ぶこと。

                                                • 味方1体がこのラウンドにダメージを受けるのを防ぐ
                                                  • 自分よりレベルの低い敵1体を殺す、さもなくば最大ダメージを与える
                                                    • 敵1体を自分の望む状態に置く(追い払う、逃げられないようにする、など)
                                                      • 自分の与えるダメージを、武器の届く範囲にいる複数の標的に割り振る

                                                        このムーヴの最初の問題は、選択肢の1つ「ダメージを受けるのを防ぐ」が、他のものに比べ極めて有用性が低い点です。敵1体を即死させる選択肢は、同じ敵からのダメージを防ぐよりも、ほぼ必ずといっていいほど有用だからです。1回目の大幅改訂は、この選択肢を外すことでした:

                                                        戦闘に加わり、敵に攻撃するなら、攻撃をしかけている敵にダメージを与え、その相手からのダメージを受ける。その上で、ダイス・ロール+【STR】。*10+なら、次から2つ選択。*7-9なら、1つ選ぶこと。

                                                        • 自分よりレベルの低い敵1体を殺す、さもなくば最大ダメージを与える
                                                          • 敵1体を自分の望む状態に置く(追い払う、逃げられないようにする、など)
                                                            • 自分の与えるダメージを、武器の届く範囲にいる複数の標的に割り振る

                                                              これにより残された選択肢は3つだけになり、10+だと2つ選べるのだから、十分な数の選択が備わっていると言えます。ムーヴを行うプレイヤーは、必ず選択肢の1つを捨てなければなりません。また、選択肢はすべて、明らかに役立ちます。けれども、まだ問題が1つ残ってます。そう、このムーヴに付随する最大の問題、「物語内でのアクションが、なりゆきに密接な関わりをもたない」が。

                                                              次のような状況を考えてみてください。グレガーは巨大なアックスでイーグル・ロードに攻撃します。彼は物語内でのアクションを「頭上から叩き切るように、そいつの翼にアックスを大きく振り下ろす」と描写します。次にムーヴのダイスを振り、10を出して選択を行うことになります。最大ダメージは望ましい選択肢であり、フィクションにもぴったり合います。しかし、他の2つの選択肢は、いまひとつ筋が通りません。ダメージの割り振りを選択するとしても、物語内で述べられた一撃からどうやってそれが生じるのでしょう? アックスの一閃で、イーグル・ロードの後方にいるトレントにも、どうやって命中させるというのでしょう?

                                                              このムーヴの物語上のエフェクトを詳しく検討したことで、次のバージョンへと至りました。

                                                              近接戦闘で敵1体を攻撃するなら、ダイス・ロール+【STR】。*10+なら、ダメージを与えるものの、敵はこちらにダメージを負わせることができない。望むなら、敵のダメージを受けて、自分のダメージを2倍にすることができる。*7-9なら、ダメージを与えて敵のダメージを受ける。

                                                              このムーヴはここに至り、明確に1回の攻撃に続いて起こるエフェクトのみを扱うものとなります。理屈のとおった反撃に繋がらないアクションは《ハックアンドスラッシュ》に当てはまらないため、トリガーはエフェクトと噛み合っています。あいにく、ダメージ2倍はやり過ぎだったので、このような変更を施しました。

                                                              近接戦闘で敵1体を攻撃するなら、ダイス・ロール+【STR】。*7-9なら、ダメージを与えて相手のダメージを受ける。*10+なら、ダメージを与える。敵のダメージを受けることで、自分のダメージに+2することを選択してもよい。

                                                              +2ダメージは明らかな利点ですが、ゲームを壊すほどではありません。これの唯一の問題は、攻撃のエフェクトを、ダメージを受ける点に絞ってしまったことです。モンスターは、単にHPを奪うのみならず、多彩な行動を仕掛けてきます。モンスターはプレイヤー・キャラクターを部屋の壁に投げ飛ばし、足場としている地面を破壊するものです。反撃としてそれが行えない理由はありません。

                                                              近接戦闘で敵1体を攻撃するなら、ダイス・ロール+【STR】。*10+なら、ダメージを与え、反撃をよける。反撃に身をさらす代わりに、ダメージに+1d6することを選択してもよい。*7-9なら、ダメージを与えるも、反撃されてしまう。

                                                              このバージョン(最終版)は、モンスターの「反撃」を、ダメージを被らせることに限定していません。このことで、たくさんの興味深いモンスターのムーヴを利用することへの道が拓かれます。+2ダメージの代わりに+1d6とすることで、この選択肢はより心躍る(そして少々強力な)ものとなっています。書き換えることで、わかりやすさを増しているのです。

                                                              GM

                                                              GM側のルール変更は、プレイヤー用のカスタム・ムーヴを書くこととは全く毛色が異なります。GMムーヴを書くのは難しくありません。GMムーヴは物語内で起こる事柄の宣言に過ぎないので、満足のいくものとなるよう自由に記述してください。たいていの場合、既存のムーヴの1つの特別な事例に過ぎないと判明するでしょうが、たまに新しいものが見つかるかもしれません。ハードとソフト両方のムーヴの範囲、GMの心得ならびに方針を踏まえておきさえすれば、きっと大丈夫です。

                                                              GMの心得や方針を変えることは、このゲームに施せる最大の変更のひとつです。この領域に手を着けるのは、ゲーム全体におよぶ変更の求められる公算が高く、加えてプレイテストで徹底的に見極めることが必要となるでしょう。

                                                              何が起こるか見るためにプレイする、はGMの心得の中でも最も動かしがたい部分です。異なる選択肢、例えば「用意された筋に従ってプレイする」「プレイヤーのスキルを試すべくプレイする」は、他のルールにかなり強固に反抗されるでしょう。プレイヤー・キャラクターの能力として与えられているムーヴは、冒険の構想プロットを容易く変更する力があるからです。何が起こるか見るためにプレイするのでないなら、一歩進むごとにムーヴが抵抗してくるのを甘受するか、ムーヴの多くを書き直すことを余儀なくされるでしょう。

                                                              プレイヤー・キャラクターの生き様を冒険で満た、を言い換えることはできるでしょうけど、完全に変えてしまうのは難しいところです。「プレイヤー・キャラクターの生き様を陰謀で満たす」はうまくいくかもしれませんが、陰謀は冒険のタイプのひとつに過ぎないように思えます。ムーヴの構造がこの心得を土台としているので、完全に取り外すには、大規模な手直しが必要となるでしょう。ミス時のエフェクトとGMのソフト・ムーヴはすべてここに依拠することで、冒険的な生き様を生み出すのですから。

                                                              ファンタジー世界を活写する、はおそらく一番変更しやすいものの、それでも相当数のクラス・ムーヴの書き直しが求められます。歴史に基づく世界、残忍な世界、ユートピア世界はすべて可能ですが、多くのムーヴを注意深く見直す羽目になるでしょう。歴史に基づく世界だと、魔法、装備品、その他の何箇所かを、ほぼすべて書き直すか、削除する必要があります。残忍な世界では、暗い代償を伴うプレイヤーのムーヴのみが残されるでしょう。ユートピア世界では、記載されたムーヴの多くを必要としません。それでもやはり、心得を書き換えるならここが一番簡単です。必要なのはムーヴの変更であり、ゲームの基本構造を変えることではないからです。

                                                              GMの方針は心得よりも柔軟とはいえ、ほんのちょっとの修正がゲームを大幅に変えてしまうかもしれません。「プレイヤーではなく、キャラクターに話しかけよう」「脈絡に沿ったムーヴを行おう」「GMのムーヴの名称を決して口に出さない」「物語にはじまり、物語に終わる」「プレイヤー・キャラクターのファンになろう」は一番大切な方針です。プレイでの会話とムーヴの使用時にこれらを欠くなら、崩壊してしまう可能性が大です。

                                                              「幻想的な物事を織り込もう」「全てのモンスターを生き生きと描こう」「全ての登場人物に名前をつけよう」「物騒な考えを心がけよう」は、ダンジョン・ワールドとファンタジー冒険の要石となる精神です。変更は可能ですが、このゲームのセッティングを変えることになります。いずれかに手を加えたいなら、これらすべてを変更する必要が生じるでしょう。

                                                              「地図を描き、空白を残そう」「質問し、その回答を活用しよう」は、ダンジョン・ワールドをうまく運用する上で重要です。同じスタイルを取る、数多くの別ゲームにもこれは当てはまります。これらを欠くなら、ゲームは力を失うものの、会話によるプレイを続けることはできるでしょう。また、これらは、一番移植しやすい類の方針でもあり、多くの他ゲームにも適用できます。相当に異なったプレイスタイルのゲームにおいてすら、力を発揮するでしょう。

                                                              一部の人が付け足すことを好む追加の方針として、「縁故を試す」があげられます。この方針は、他の方針およびすべてのムーヴと全く問題なく共存するものの、ゲームの焦点は多少違ったものとなります。この方針と連動するようフロントには再検討が要るでしょうし、これを取り扱うムーヴを追加する必要があるかもしれません。

                                                              モンスター

                                                              モンスターを変更するに際し最も手を入れやすいのは、作成に用いられる質問です。一番容易い変更は、殺傷力をいじるか、好みに合わせたランダム性を加味するあたりです。

                                                              より興味深い変更は、質問内容を入れ替えることで、モンスターによってことなる見解を提供することです。この視点を質問に組み込むことで、モンスターたちも程度の差はあれ他の生物と同じだということが仄めかされることになります。つまり、いくつもの属性があり、必ずしもプレイヤー・キャラクターと対立するわけではないわけです。ダンジョン・ワールドを邪悪なモンスターどもを狩りたて滅ぼすゲームにしたい場合、一部の質問を書き換えてください。おそらく次のようなことを付け加えることになるでしょう:

                                                              このモンスターは徹頭徹尾邪悪だ。次から1つ選んで、邪悪である理由に反映させること。

                                                              • 障壁の向こうから侵入してきた古のもの:[別次元存在]、[+5ダメージ]
                                                                • 赤き塔の老魔術師の産物:[コンストラクト]、[+5HP]
                                                                  • 人類有史以前の時代出身:[原初存在]、[+5ダメージ]、[+5HP]

                                                                    モンスター作成の質問を新たに作成した場合、質問にも答えることで既存のモンスターを再解釈するか、新しい質問を新規モンスターにのみ適用するかの、どちらかが行えます。追加した/変更した新たな質問が、あなたの思い浮かべるダンジョン・ワールド像の要をなすものなら、使用するモンスターすべてを作りかえるのが一番です。その質問がなんだかんだで特定の種類のモンスターにのみ適用されるものなら、新しいモンスターにだけ用いればよいでしょう。